第39話 戦




「おうおう、ここだな」


 グラベル家の巨大な屋敷内を駆け回り、ロベルトはやっと目的の場所にたどり着いた。


 かつてレイアが話していた、グラベル家に監禁されている実験体の人々。彼らが監禁されている地下監禁部屋だ。


 牢屋に閉じ込められた人々は、突如現れた武装した傭兵達の姿に戸惑っていた。


 しかし、詳しく説明している暇は無い。ロベルトは彼らに早口でまくし立てた。


「時間が無い! 今から俺たちがカギを破壊するから、アンタ達は案内に従って避難してくれ!!」


 ロベルトの切羽詰まった様子と、鳴り響く喧噪に事態を察したのか、その言葉に素直に従う人々。


 ロベルトら傭兵たちの誘導にしたがって、屋敷を抜け出すために駆けだした。


 しかしその逃走劇は、進行方向からやってきた一人の男によって阻止される。


「やあ、侵入者の諸君。ご機嫌いかがかな? ちなみに私の機嫌は最悪だよ」


 愛用の杖を片手にやってきた初老の男。


 にこやかな表情とは裏腹に、その身には他人を震え上がらせるような覇気をまとっていた。


「おいおい、随分と早いじゃねえか……ご当主様自らお出迎えかい? こりゃ、ありがたいねぇ」


 見たことが無くても、目の前の人物の正体はわかっている。


 グラベル家当主、世界最高の魔法使いロイ・グラベル。


 ロベルトは苦虫をかみつぶしたかのような顔で、彼を見つめた。


 傭兵達も各々武器を構えるが、目の前の人物にソレが通用しない事くらい分かっていた。


「さて、何故屋敷を襲撃したかなんて野暮な事は聞かない。世界最高の魔法使いと称される私を襲撃したのだ……それなりの覚悟があっての事だろう。だから私から君たちへの解答はただ一つ、”皆殺し” だ」


 右手に持った杖が異様な輝きを放つ。


 ロイほどの使い手になると、魔法詠唱の隙など存在しない。ただ脳内でのみ魔法の理論を組み立て、魔法を展開する。


 ターゲットは侵入者。


 攻撃は必殺。


 前方に展開された攻撃の魔法は、


 しかし、ロイの右側から屋敷の壁をぶち抜いて現れた乱入者によって乱された。


「ロイ・グラベル……貴様の相手はこの俺だ」 


 突如現れたのは、見上げるほど巨体、全身を黒ずんだ鉄の装備で固めた重戦士だった。


 魔法使いにとっては不利な、剣を振れば当たるような間合いにまで距離を詰められ、しかしロイは余裕綽々の表情で戦士を見上げる。


「はて? どこのゴミかな?」



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