第38話 奇襲





「父上、何やら魔法協会から呼び出しがありました……定例の会議には早いようですが」


 ローガンの報告に、ロイは少し首を捻った。


「ふむ……魔法協会が定例会議以外で我々グラベル家を招集するほどの事態……か、ここ数十年無かったな」


 そしてロイは鋭い目線をローガンに向ける。


「ローガン、協会からの書状は本物か?」


「ええ……書状には協会のフラベル伯爵の印があります」


「見せてみろ」


 差し出された書状を受け取り、印を確認する。


 確かにそこには、フラベル伯爵の印が刻まれていた。


 印の偽装は難しい。


 特にフラベル伯爵ほどの魔法使いになると、その印にも偽装防止の魔法が掛けられている。故に、この印があるという事は、この書状が本物であるという根拠になりえるだろう。


「なるほど……本物のようだ。文面で呼び出した内容が記されていないとなると、かなりの厄介ごとかも知れんな」


「では、私が協会本部まで出向きましょう。しばし家を空けますが、よろしいでしょうか?」


「構わん。些事は任せる」


 ロイの言葉に、ローガンは頭を下げて「行って参ります」と部屋から出て行った。

 わずらわしい事だ。


 魔法の深淵を探求する、謂わば同じ目的を持っている協会ですら、自分の手を煩わせているという事実に苛立っていた。










 ハッと目を覚ました。


 何かがおかしい。


 夜遅くだというのに、喧噪が聞こえ、小窓からは何故かオレンジ色の明かりが差し込んでいた。


 ロイはベッドからサッと起き上がり、小窓から外を覗く。


 火だ。


 屋敷が燃えている。


 よく見ると、外で子飼いの兵たちと、何者かが争っているようだ。


 屋敷が燃える焦げた臭いとともに、微かに血の臭いが漂っていた。


 バタンと扉が乱暴に開かれる。


 血相を変えた使用人がこちらにやってきた。


「旦那様!! 襲撃者です!」


 そんな事はわかっている。


 ロイは無言でコートを羽織ると、愛用の杖を手にし、鬼の形相で魔法を展開した。

 練り上げられた強大な魔力は、右手に握った愛用の杖の先……触媒である宝玉を通して増幅され、上方へと放たれる。


 部屋の屋根を突き破って屋敷の上部へと放たれた魔力の塊。


 ソレは上空で多量の水へと変換され、雨となって屋敷に降り注ぐ。


 魔力により生成された紛い物の雨は、屋敷を襲う業火の威力を弱めていく。


「……この屋敷には貴重な実験道具や、研究サンプルが山ほどある……燃やされてたまるものか!!」


 怒っていた。


 自分の屋敷を襲撃に来るという身の程知らずの輩どもに。


 そして、その屋敷を燃やそうとした愚かさに。


 ロイの研究は、その後人類をさらなる発展に導くための尊いものだ。


 それを理解できない愚か者ども…………生かしてはおけない。


「愚か者共に、魔法という力の神髄を……私自らがレクチャーしてやろう」




 

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