第37話 奇襲





「いいか不動? グラベル家において特記戦力は二人……誰だかわかるか?」


 ロベルトの問いに、コーデリクは静かに頷いた。


「当主ロイ・グラベル……そしてその息子であるローガン・グラベルだ」


「その通り。言うまでもねえが、当主のロイ・グラベルは世界トップクラスの魔法使いだ……そもそも、ロイ・グラベル単体の戦闘能力が異常、奴一人でも国と対等に渡り合えると言われている」


 一人で国と渡り合えるというのは、何も権力や影響力がずば抜けているという事だけじゃない。


 確かに、世界最高の魔法使いであれば、その影響力は測りきれない。


 彼の権力は、一国の王と比較しても遜色ないだろう。


 だが、ロベルトが言ったのはそういう意味じゃ無い。


 純粋なる彼の戦闘能力。


 魔法の深淵を極めたロイ・グラベルの戦闘能力は、単純に一国の軍隊に匹敵する。


 魔法とは、本来人に許されざる強大な力。


 初級魔法の使い手でさえ、非魔法使いにとっては抗いようのない驚異へとなりえる。


「息子のローガン・グラベルは、父親ほどの実力は無いと言われているが……それでも優秀な魔法使いである事に違いは無い」


「……あぁ、異論は無い」


「いくら俺達が手を貸すとは言え、対魔法使いは専門外だ……俺達にできるのは、せいぜい奴等の子飼いの兵達を足止めすることくらいだ…………そこで、一つ作戦がある」


 そう言ったロベルトは、少し得意げにコーデリクを見上げた。


「俺たちが他の傭兵団と違う所がある……何かわかるか?」


「違う所?」


 ロベルト傭兵団は規模が大きく、団長であるロベルトの人柄もあってか、界隈では有名なチームだ。しかし、規模が大きいことは知っているが、他との違いなど見当も付かない。


「……わからんな、違いとは何だ?」


 正直に答えたコーデリクに、ロベルトはニヤリと口角を上げた。


「ウチには俺がいる」


 何とも言えない顔でロベルトの顔を見つめるコーデリク。しかしロベルトはニヤニヤとしながら話を続けた。


「おっと、冗談じゃねえぞ? 基本的に傭兵なんてのは他に行く当てのねえ荒くれどもがやる職業だ。ただ暴れるしか脳がねえ……基本的にはそこいらの盗賊と何も変わらねえよ」


 だが俺は違う、とロベルトは続けた。


「俺は他の馬鹿野郎どもとは違って、ちいとばかし頭を使うことができる……頭を使うことの重要さを知っている。だからこそ、この用兵団はここまでデカくなれたんだ」


 それは事実であった。


 ロベルト自身の戦闘能力はそれほど高くない。


 しかし、団員の誰も、彼が団長をやることに意義を唱える者はいなかった。


 それは彼の指示が的確であり、彼の指示があったおかげであらゆる危機を乗り越えてきた実績と信頼があるからだ。


「そんな俺から言わせて貰うと……ロイ・グラベルとローガン・グラベルを同時に相手するのは無謀。故にこの二人を分断させる」


 分断。


 確かに二人同時よりは各個撃破の方が手っ取り早い。


 しかし、問題は……。


「そんな事が可能なのか?」


「任せろよ。昨日仕入れた情報によると、当主のロイ・グラベルは基本的に屋敷から動かない人物らしい。外で野暮用があった場合は息子のローガンが代理として出席するって話だ」


「なるほど」


「おう、だから少し細工をする……不動、お前は魔法協会って知ってるかい?」


「名前くらいは知っている」


「まあ、ざっくりと魔法使いのお偉いさんが在籍している団体って覚えときゃあ良い。そして……俺はその協会に知りあいがいる」


 コーデリクは驚いたように目を見ひらいた。


 傭兵と魔法使い。住む世界の違う両者に、交流があった事に驚いたのだ。


 ロベルトは少し気まずそうにポリポリと頭を掻く。


「……まあ、傭兵業で知り合ったって訳じゃねえんだがな。取りあえず、その知りあいの生を使って息子を国外へ呼び寄せることができる」


「その知りあいに迷惑がかからないか?」


「知らぬ存ぜぬで押し通せって、先に連絡は入れておく……まあ、怒るだろうが、それでも最後は許してくれるだろうさ」


 そして、ロベルトは真剣な目をしてコーデリクに確認をした。


「ローガン・グラベルを国外へおびき寄せ、そして子飼いのケルベロス部隊は俺たちが押さえる……しかし、それら全てはお前がロイ・グラベルに勝てなければお終いだ……わかっているな?」


「もちろんだ」


 堂々としたその返答に、ロベルトは満足そうに頷く。


「よっしゃ! いっちょぶちかましてやるか……世界最高の魔法使いによぉ!!」





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