第34話 ロベルト
ロベルトは仲間の傭兵達が酒盛りをする様子を、しょうがない奴等と微笑みながら眺めていた。
そのツルリとはげ上がった頭をなでつけ、自らも酒を飲む。
彼らは流れの傭兵団だ。
拠点を持たず、食い扶持である戦のある場所へと移動を続けている。
一仕事終えた後の彼らは、いつものごとく酒盛りをしているのだ。
傭兵達の酒盛りは凄まじい。
浴びるように酒を飲み、腹がパンパンになっても肉を喰らいつづける。
これが傭兵の生き様だと言わんばかりな豪快な飲み方。しかしそれは、彼らの不安の裏返しでもある。
傭兵という仕事は、お世辞にもまともな仕事とは言いがたい。
いつ死ぬか分からないどころか、金でいくらでも雇える傭兵は、大抵の戦場では捨て駒扱いを受ける。
明日の食い扶持を稼ぐため、今日の命を捨てるような矛盾。
だから彼らは、よく酒盛りをする。
人生に悔いを残さぬように、今日を全力で生きる。
ロベルトは、そんな馬鹿達の事が、大好きだった。
ロベルト・ハイド・カルタナ。
彼は亡リリア共和国の貴族、カルタナ家の嫡男だった。
幼少期より武術や学問などの英才教育を受けていた彼は、文武両道で性格も面倒見が良く、周囲の人間から慕われていた。
恵まれた生まれ、恵まれた才能、皆から好かれる性格……。
そんな完璧な人生を狂わせたのは ”戦” であった。
敵対国に攻め込まれたリリア共和国。
兵も必死に抵抗したが、敵国の力は強く、あっと言う間に防衛ラインを突破された。
蹂躙されていく国民達。
燃やされる建物、逃げ惑う貴族の仲間。
ロベルトは全てを見ていた。
必死に学んだ武術や学問、誇りに感じていた貴族の名前など、何の役にも立たないという事を、その時に悟ったのだった。
彼は家族や仲間と供に逃げた。
逃げて、逃げて、必死に逃げて……。
その過程で、どんどんと脱落していく仲間達を置いて、それでも逃げ続けた。
気がつくと一緒に逃げていた仲間や家族は誰一人残っておらず。
ロベルトはただ一人、祖国から遠く離れた地で途方に暮れていた。
戦に全てを狂わされたロベルト。
しかし、そんな彼を救ったのも、また ”戦” であった。
”ロベルト用兵団”
いつしか、そう呼ばれるようになった集団は、彼が自分と同じような、どうしようもない流れ者達をまとめ上げた組織だった。
世界に見捨てられた流れ者達は、今のロベルトにとって唯一の繋がり……仲間だ。
用兵団が酒盛りをしている場所に、珍しい来客があった。
人の倍はあろうかという巨体、前に見たときは健在だった右手は、どこかに落としてしまったのだろうか、鉄の義手になっているようだった。
ロベルトは気軽に右手を挙げて合図をすると、来客者の名前を呼ぶ。
「よぉ、”不動” 元気してたかい?」
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