第31話 深淵の探求





 魔法適正の高い若者が集まる学園。通称魔法学園の特別講演にて、彼女は特別講師としてやってきた。


「やあ、まだ自分のケツも満足に拭けないクソジャリども。アタシは ”不老” のセシリア・ガーネット。こんなナリをしているが、軽くお前達の3倍は生きている婆さ」


 教壇に立ってそんな事を言い放ったのは、少女の見た目をした魔法使いだった。


 可憐な少女の見た目とそぐわぬその台詞に、講義を受けていた生徒達がざわついている。


「この中に、将来アタシと同じ魔法の道を志す者も現れるかもしれない。もしかしたらソイツがアタシが為し得なかった ”不死” の魔法を完成させる事だったあるだろう」


 彼女はぐるりと周囲を見回す。


「そんな希望に満ちた未来の魔法使い達に忠告をしておく」


「魔法使いとは……即ち ”紛い物” の研究に人生を捧げる馬鹿の総称なのさ」


「そもそも ”魔法” とは、森の民……エルフと呼ばれる種族が扱う ”精霊術” を模倣して作られた技術体系だ。精霊を視認する事すらできない、汚れた存在である人間が、それでも超常の術扱わんと必死に知恵を絞って作り上げた ”紛い物” 。それが魔法だ」


「魔法なんて、そもそも前提から間違えている技術だ。精霊の見えぬ人間に、精霊術の秘奥が極められる筈も無く」


「魔法を極めたとしても、森の民の高みに追いつけないだろうさ」


「最初から敗者である事が運命づけられた呪われた技術」


「それが、魔法だよ」


 それだけ言い終わると、 ”不老” のセシリア・ガーネットは、呆然としている学生達をおいてサッサと降壇してしまった。


 魔法使いに憧れていた奴等が、何て婆だと彼女を罵っているのを遠目で見ながら、ロイは自らの内側に灯った小さな情熱の存在に気がついた。


(……何故だ? 何故あんな救いの無い公園を聞いて、私はこんなにも滾っている)


 わからない。


 何も、わからない。


 しかし悩んでいるうちに彼の体は勝手に動き出し、帰ろうと準備をしている大魔法使いの小さな背中を追いかけていた。


「あの……すいません」


 ロイの声に、セシリアはゆっくりと振り返る。


「私を……アナタの弟子にして下さいませんか!?」




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