第30話 暗く深い鉄の巨人
最初に動いたのは死神。
魔法使いにとってのタイマンは、いかに自分の懐に相手を入れないかがカギとなる。先手を取るのは必然といえた。
左手を突き出し、魔法の詠唱を始める。
「”闇よ、在れ”」
左手に装備した指輪型の触媒を通して、発動した魔法威力が増幅される。
死神にとっての最強の攻撃手段である闇魔法。
全てを浸食し、破壊する。まさに破壊の権化たる魔法。
左手の掌に収束された闇の魔法が、殺意を持って放たれる。
かつてコーデリクの装備を破壊したその魔法。やや下方に向けて放たれたソレは、例えコーデリクが回避したとしても地面にぶつかり破裂、広範囲に広がって敵にダメージを与える。
必中にして必殺の一撃。
そんな意地の悪い攻撃に対して、コーデリクは地面に突き刺していた盾を引き抜き構えた。
正面から受け止めるつもりだ。
その瞬間、死神は次の魔法の準備に取りかかった。
闇魔法の威力は絶大だ。
しかし、前回の闘いでコーデリクの異様なタフネスは知っている。
先の闇魔法はコーデリクの盾を粉砕するだろう。
しかし奴は止まるまい。
ならばこそ、第二・第三の魔法を放ち、確実に息の根を止める。
最大の威力で放つ必要は無い。
最初の一撃で敵の防御を突破できたのなら、二撃目、三撃目は威力よりも懐に入られないように速度を重視する。
そも、人間一人を壊すために最大出力の魔法は必要ない。
やっかいな奴の装備さえ剥がしたのなら、後は詰め将棋だ。
死神が素速く最善の手を打ち続ければ勝利は確実だろう。
最初に放った魔法が、コーデリクの構えた盾に着弾。その広い攻撃範囲により、砂埃が舞い上がり、視界が悪くなる。
詠唱覇気、最速で展開する追撃の闇魔法を放つ。
視界が悪く、正確な位置はわからないが、そんな事はどうでも良い。
この魔法の攻撃範囲ならば、ある程度の位置に当たりをつけて放てば着弾するだろう。
しかしここでも止まらない。
だめ押しの三撃目。
連続した高難度の魔法の行使により、脳みそが悲鳴を上げているが、ソレを無視して闇魔法を展開する。
放たれるだめ押しの闇魔法。
「私の勝ちだ!!」
勝利の宣言をする死神。
高らかに笑い声を上げる彼の前に、立ちふさがる巨大な影。
砂埃が舞い上がる中、至近距離まで距離を詰めたのは鉄の重戦士。
驚愕に目を見ひらく死神。
見ると、コーデリクの装備には傷一つついていないようだった。
振り上げられた鉄の義手。
スルリと義手から飛び出た片刃が陽光を受けてギラリと光った。
「……やめ…」
何か言いかけた死神に対し、無慈悲に刃は振り下ろされる。
剣の理もクソも無い、ただ常識外れな膂力に任せた稚拙な一撃は。まるで剣の達人が放つ一撃のように呆気なく死神の首を切り落とした。
首を失い、バタリと力なく倒れる死神を一瞥し、コーデリクは静かに言い放った。
「いくらデタラメな回復力を持っていようが、首を落とされれば蘇れないだろう?」
◇
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