第29話 暗く深い鉄の巨人


「おや、まだ息があるとは頑丈な体をお持ちのようだ」


 ボロボロで地面に伏している魔鉄を嘲るように死神は笑う。


 死神は左手に握り締めていた崩落を再び飲み込み、腹の中に納めると、地面に落ちていた、切り落とされた自身の右手を拾い上げる。ドクドクと未だに出血の止まらない傷口にグリグリと右手を押し当て、回復の魔法を発動した。


 切り落とされた右手にはめられた指輪が反応し、発動した魔法は腕全体を包み込み、やがて腕は完全にくっついてしまった。


「腕が切り落とされるなんて久しぶりだ……よくもこの私に恥をかかせてくれたな?」


 少し息が上がっている。


 回復の魔法は傷自体は治療してしまえるが、体に受けたダメージは消えない。治療できるからといって、ダメージを負って良いわけではないのだ。


 さらに先程使用した禁忌の触媒 ”崩落” は、確実に死神の体を蝕んでいた。常人なら一度の使用で命すら危ういほどのダメージを負う。


 天才ロイ・グラベルにより魔法を使う事に特化して作られた死神の体だからこそ、崩落の使用にギリギリ耐える事ができるのだ。


「っは……そんなポンポン腕がくっつくのかよ……気持ちわりぃ体してんな」


 地面に転がりながら悪態をつく魔鉄に、死神はゾッとするような笑みを見せる。


「気持ち悪い体……か。確かにな。だが、それはこれから死ぬ君には関係の無いことだろう?」


 左手で魔鉄に照準を合わせる。


 発動する魔法は最強の闇魔法。


 相手の実力を知った以上、一切の手加減をするつもりは無かった。


「”闇よ、在れ”」


 左手の指輪型の触媒により増幅された魔力が放たれようとしたその時、倒れた魔鉄の前に何か黒い影のようなものが現れた。


 放たれる闇魔法。


 それは周囲の砂埃を巻き上げて、一瞬周囲の視界がゼロになる。


 激しい衝突音が鳴り響く。


 モウモウと巻き上がった砂埃が収まった時、視界の先には巨大な鉄の塊が見えた。


「……間一髪だったようだな」


 そう言って巨大な盾を降ろすのは、暗く深い色をした板金鎧を身につけた重戦士。


 その巨体を見て、死神は目を大きく見ひらく。


「やっと会えたなぁ!! ”不動” のコーデリク!!」


 興奮した様子の死神に対して、コーデリクは静かな声で答えた。


「生きていたか……確実にこの手で殺した筈だったが」


「私は貴様にとっての死神だ! その命を刈り取るまで滅びはせぬ」


「……そうか、まあいい」


 コーデリクはドンと、地面に盾を突き立てると、フリーになった左手で右手の義手の仕掛けを作動した。


 魔鉄の仕込んだカラクリにより、義手から刃渡りの長い片刃が飛びだした。


 義手と同じ鉱石により鍛えられたその刃は、鎧ごと人を切り捨てても刃こぼれしないほどの強度を誇る。


「何にせよ、レイアを殺したお前を許すつもりはない……一度で死なぬのなら、何度でも殺してやる」

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