第27話 試し切り

 二本の刃が鋭い剣線を描いて躍りかかる。


 右肩の剣を引き抜いた死に神は、右手をスッと横にスライドさせて、無詠唱・斬撃属性の魔法を発動する。


 威力はそれほどでも無いが、人を殺すには十分な殺傷能力がある。無詠唱のため隙も少なく、無色透明の魔力の刃は回避も困難と使い勝手の良い魔法である。


 透明な刃が魔鉄に飛んでゆく。


 威力こそ低いが、その特性ゆえに初見では対処のしづらい攻撃だ。大概の相手はこの魔法が発動していることにすら気がつかない。


 しかし魔鉄は、まるでその攻撃が見えているかのように機敏な動きで魔法を回避。一気に踏み込むと、刃を一閃して死神の右手を鮮やかに両断した。


 声にならない悲鳴を上げながら。それでも死神は必死に歯を食いしばり、魔鉄の胴を蹴飛ばすと距離を取った。


 ドクドクと流れ続ける鮮血。


 負傷した右手をダラリと垂らし、息を荒げて相手を睨め付ける死神。対する魔鉄は余裕の表情で宙で剣を振るった。


 侮っていた。


 ギリリと歯を食いしばる。


 敵は ”不動” のコーデリクだけだと思っていた。しかし目の前の鍛冶師はどうだ? 死神の攻撃にも全く動じず、それどころか攻撃用の触媒ごと右腕を失ってしまった。


 相手は強敵だ。


 それは認めよう。


 右手は切り落とされ、凄腕の剣士相手に必中の距離を取られている。


 しかし、それでも死神は敗北など考えていなかった。


「……お前は強い。それは認めよう……しかし」


 残った左腕でグッと腹を押す。


 ググッと喉からせり上がってきたモノを吐き出して、それを左手で受け止める。


 ソレは握り拳ほどの大きさをした澄んだ青色の宝玉だった。ソレを見た瞬間、今まで余裕を持っていた魔鉄の視線が鋭くなった。


「テメエ……そいつをどこで……?」


 驚愕する魔鉄に、死神は狂ったように笑い出す。


「そうか! 知っているか、コレの事を!! ならばひれ伏せ! 恐れろ! そして死んでゆけ!!」


 その宝玉の名は ”崩落” 。


 所持者の持つ魔力を爆発的に増幅させ、非魔法使いですら大群を相手にできるほどの魔法を使えるようになるという代物だった。


 しかし力には、それに等しいだけの代償が必要だ。


 宝玉を使用したものは、一人の例外もなく、その生命力を使い果たして死んでしまった。


 あまりにもリスクが大すぎるため、その使用はすでに世界的に禁止されているのだ。


「テメエ、ソイツを使う気か!? 死んじまうぞ!」


 魔鉄の叫びに、死神は狂気の笑いを浮かべて魔法の展開を始めた。


「”闇よ、在れ”」


 左手のにはめられた触媒の指輪と、手に握られた崩落が反応、練り上げられた魔力が触媒を通して増幅される。


 練り上げられていく強大な魔力に危機を覚える魔鉄。


 咄嗟に手に持った剣を投げ捨て、背後にあった金床の背後に隠れる。


 そんな魔鉄の様子を見て、死神は歪に口角を上げた。


 無駄なことを。


 そんな貧相な盾でこの力を受け止めきれる筈が無い。





 放たれた闇の波動は、

 半径数十メートルにある全てのものを飲み込んだ。


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