第26話 来訪者
◇
カーン
カーン
カーン
寂れた廃都市に、鉄を打つ硬質な音が響き渡る。
魔鉄と呼ばれる放浪の鍛冶職人は、一人もくもくと鉄を打ち続ける。
右手のハンマーを振るう度に集中力が研ぎ澄まされてゆく。
深く、より深く、彼女はただ自身の心の深みへと潜る。
その集中力が極限まで高められたその瞬間、魔鉄は鉄を打つハンマーの動きをピタリと止めた。
額の汗を拭い、工房の入り口の方向を見てポツリと呟いた。
「何もんだ? そんな不細工な殺気を出されちゃ仕事に集中できねえ」
次の瞬間、バラバラと細切れになる工房の扉。
姿を現したのは、フードを目深に被った痩せぎすの男だった。
「ごきげんようレディ。我が友、”不動” のコーデリク君がここにいると聞いてやってきたのだが、ご在宅かな?」
「めんどくせえ野郎だな……テメエあれだろ? グラベル家からの刺客か何かだろ?」
「そうとも言えるし、そうで無いとも言える。ただ一つ確かなことは、私は君たちにとっての ”死神” だということだ」
そして死神はその右手をスッと前に突き出す。
込められた魔力がチリチリと空気を焦がした。
空中で交差する視線。死神が攻撃の魔法を詠唱する。
「”炎よ”」
右手人差し指の指輪が紅く発光し、魔法が展開される。
掌より放たれた火球が魔鉄に襲いかかる。しかし彼女は機敏な動作で横っ飛びに回避。そのままの体勢から手にしたハンマーを死神に向けて投擲した。
不完全な体勢から放たれたにしては、凄まじい勢いで飛来するハンマー。死神がギリギリで上体を捻り回避すると、その間に魔鉄は工房の奥へと移動した。
「悪あがきを! 逃しはしない」
一歩踏み出したその瞬間、工房の奥から飛来した一振りの剣が死神の右肩に突きささった。
「心臓を狙ったつもりだったんだがな……アタシも衰えたもんだ」
そう言ってやってきた魔鉄は、その両手に一本づつ片刃の剣を持っていた。
「昨日鍛えたばかりの剣だ……試し切りに付き合ってもらうよ?」
ニヤリと不敵に笑った魔鉄は、強者の雰囲気を纏っていた。
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