第25話 追跡者



「私は紳士的な男だ。故に、君たちが素直に答えてくれるのなら荒っぽい事はしない……確かにそう言ったと思うが?」


 フードを目深に被った痩せぎすの男……死神と呼ばれる魔法使いはため息をついた。


 彼の足下には血だらけになった無骨な男達が倒れている。


「……ふざけやがって。何もんだテメェ」


 そう呟いたのは、裏社会では腕利きの情報屋として名を馳せている男だ。


 商売の性質上、荒事も珍しくはない。故に情報屋は護衛の腕利きを常に数人つれているのだが……。


 結果は無惨だった。


 突然やってきた無礼なフード男。護衛の3人が取り囲むと次の瞬間には彼らは血だらけで地面に伏していた。


 何が起こったのかはわからない。


 ただ、目の前の男が危険すぎるという事は嫌ほど理解できた。


「もう一度言う、私は紳士的な男だ。君が素直に答えてくれるのなら荒っぽいマネはしない」


 静かな口調だったが、良く通る声だ。


 情報屋は冷たい汗が背を伝うのを感じながら頷いた。


「わ、わかった。何が知りたい?」


「”不動” と呼ばれる傭兵の事は知っているな?」


「……あぁ、有名人だからな」


「そいつの居場所が知りたい。簡単な情報だろう?」


「居場所だと? 残念だがそんなピンポイントな事は知らねえな。力になれなくて悪いが……」


 情報屋の言葉を遮るように、死神はスッと右手を横に振った。


 足に走る鋭い痛みと供に情報屋は地面に崩れ落ちる。見ると、彼の両足は綺麗に切断されていた。


 鋭い悲鳴を上げる情報屋。死神はしゃがみこみ、彼の頭を持ち上げて目線を合わせる。


「面倒な探り合いは好きではない。奴がお前から情報を買った事くらいわかっている、下手な嘘はやめておくのだな。次はその両手を切り落とす」


 死神の冷え切った視線が、その言葉が脅しでない事を悟らせる。


 情報屋は必死で答えた。


「わかった!! 言うって!! ……不動はリリアムという廃都市に向かった! 嘘じゃねえよ!」


「廃都市? 何故だ?」


「”魔鉄”っていう放浪の鍛冶職人を探しているらしいんだ! ほら、話しただろ! 助けてくれよ」


「……鍛冶職人。なるほどな」


 コーデリクの鎧は闇魔法により破壊されている。新たな装備を揃えるため、腕の立つ鍛冶職人の元へ向かったというのは納得のいく話だった。


「話してくれて助かったよ。では……」


 そう言って死神は右手をスッと横にスライドした。


 必死の命乞いをする情報屋の首は、死神の手の動きに合わせるかのように切りさかれ、鮮血が傷口から吹き出した。


 バタリと倒れる情報屋の体。


 死神は立ち上がり、顔に付着した返り血を拭う。


「廃都市リリアムか……少し遠いな」




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