第24話 飾り物



「待たせたね、コイツがボウズの新しい腕だよ」


 そう言って魔鉄が取りだしたのは、深く黒い色をした鉄の義手だった。


 動かないコーデリクの腕を見て、魔鉄が提案したのは戦闘用にカスタマイズした鉄の義手による戦力の増強だった。


 しかし一つ問題がある。


 ほとんど機能していないとはいえ、コーデリクの右腕はまだ存在する。義手をつけるには、その右腕がじゃまなのだ。


「覚悟は良いかい? 引き返すなら今しかないよ」


 そう言って魔鉄が取りだしたのは一振りの剣。


 装飾どころか柄すら存在しない薄刃の片刃剣。その薄い刀身を形作るはザラザラとした質感をした特殊鉱石。


 発火鉄と呼ばれるその鉱石は、同種の鉱石同士を擦り合わせる事で炎を纏う性質がある。 その性質を利用して魔鉄が鍛えた一振り。


 銘は ”炎刃剣” 。


 鞘の内側に仕込まれた発火鉄の仕掛けにより、抜刀と供にその刀身は発火する。


 炎の刃により切りさかれた傷口は瞬時に火傷を負い、出血すらしない。相手に癒えない傷を与えるという残虐な剣だ。


「アタシは今からコイツでボウズの右腕を切り落とす。傷口は炎により焼かれ、出血はしない……薬の類いは持っているが、アタシは医者じゃねえ、地獄の苦しみを味わうことになるよ?」


 念を押す魔鉄に、コーデリクは眉一つ動かさずに同意する。


 彼の覚悟を見て取った魔鉄は、これ以上の問答は無粋と悟ったのだろう。無言で帯刀した炎刃剣を構えた。


 魔鉄はあくまで鍛冶師である。


 しかし剣を構えたその姿からは、今までに感じたこともないほどの威圧感が感じ取れた。


「疾っ!!」


 短く鋭い息を吐き、魔鉄が抜刀した。


 居合いと呼ばれるその技術は、遙か東方に位置する辺境で生まれた剣技。その刃は鞘の中で加速し、抜刀した瞬間に刃は最高速で相手に襲いかかる。


 その鮮やかな剣線は前に突き出したコーデリクの前腕を両断する。


 カチンという硬質な音と供に刃は再び鞘に収められる。肉の焦げる臭いと供に襲い来る激しい痛み。


 声こそ上げなかったものの、コーデリクの額からは絶え間なく脂汗が滲み出ていた。


 そんなコーデリクに、魔鉄はヒョイと何かを放り投げる。反射的に左手でそれをキャッチすると、それは瓶に入った薬液のようだった。


「ソイツをぶっかけて包帯を巻いてな……運が良ければ傷口は膿まねえ」


 一歩間違えればその怪我が悪化し、戦力の増強どころか戦う事すら難しくなるであろう危うい綱渡り。


 まともではない。


 それを提案した魔鉄も、その提案に乗ったコーデリクもだ。


 しかしまともでは得られない力というものは確かにある。


 痛みに耐えながら、コーデリクは傷口に薬をぶちまけた。


 腕などいくらでもくれてやる。


 それで力が得られるのなら安いものだ。


 その瞳には、静かなる狂気の炎がメラメラと燃えていた。




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