第22話 再会
◇
「おや、何やら朝からクセエと思ったら、負け犬の面した懐かしい奴がいやがるな。どうした? このアタシに何か用か?」
魔鉄の第一声はボロボロのコーデリクに対する嘲笑であった。
あれからコーデリクは、ありとあらゆる手段を使ってこの放浪の鍛冶職人の行方を追った。何せ彼女は放浪の旅人。その居場所を特定するのは並大抵の事では無かった。
それでも彼の狂気とも言える執念が、この場所へとたどり着かせたのだ。
コーデリクは笑う彼女の前に進み出て、深く深く頭を下げる。
「…………力が欲しい。どんな魔法にも、兵器にも負けぬほどの……圧倒的な力が。……手を貸して欲しい」
もう何者にも負けることは許されなかった。
ただ、力が欲しい。
誰にも負けないように。
誰も失わないように……。
無言で頭を下げ続けるコーデリクに、魔鉄はしばらく何かを考えると、ポンと両手を打ってしゃべり出した。
「取りあえず腹が減った。飯にしようぜ」
魔鉄が現在拠点としているのは、かつて賑わいを見せていたであろう鉱山都市。近辺の鉱山が掘り尽くされ、都市ごと廃棄された場所だ。
人のいない街中、魔鉄と二人で歩く。
彼女の右手にはツルハシ、左手にはパンパンになったずた袋を持っており、先程まで採掘をしていた事がわかる。
「なんだ? 不思議そうな面してやがるな」
コーデリクの視線に気がついたのか、魔鉄は袋を開けて中身を見せる。中にはやけに黒ずんだ鉱石の塊が詰め込まれていた。
「これは ”馬鹿鉄”って呼ばれてる鉱石で、まともな人間ならその場で捨てていく代物だ。何せ金にならねえ。馬鹿みてぇに堅すぎて加工にアポみてぇに手間がかかるからな。この鉱山は金になる鉱石は掘り尽くされたが、こういった金にならねえ鉱石は割と残ってんだ」
魔鉄の説明を聞きながら歩いていると、魔鉄が拠点としている廃墟へとたどりついた。かつて鍛冶師が住んでいただろうその廃墟には、ボロボロだが鍛冶をする環境が揃っていたのだそうだ。
「特別にアタシが飯を作ってやる……アタシの手作りが食えるなんて幸せもんだぜ? テメエはよ」
魔鉄の料理の手際は、意外と言って良いのか見事なものだった。まともな料理を作れないコーデリクからすると、それこそ魔法でも見ているかのような素早さで次々に料理を仕上げていく。
じっくりと煮込まれた山菜のスープ。遠火でサッと炙った干し肉に、そこいらで自生していたという野性の果物。
旨そうな料理の数々を目の前にして、コーデリクの腹がグゥーっと鳴った。そして、しばらくまともな食事を取っていなかった事を思い出す。
食事の用意を終えた魔鉄は、部屋の隅に置かれていた荷物の中から二本の酒瓶を取り出すと、一本をコーデリクの前に置き、残った一本の栓を開けるとその場でラッパ呑みをした。
「プハーッ! やっぱ働いた後の酒はうめえ!」
コーデリクは小さく頭を下げると目の前の酒瓶を取り、栓を開ける。
フワリと瓶の口からは、安ものの火酒の香りがした。
瓶に口をつけ、中身を口に含む。
強いだけで香りの薄い酒が口内を満たす。ゆっくりと嚥下すると、その熱が食道を通り、空っぽの胃袋に熱を灯した。
「まあ、見たとこボウズも色々あっただろうが、まずは飯を食え。腹が減ってちゃ何もできねえぜ?」
魔鉄に進められるまま、コーデリクは食事を始めた。
不思議なことだ。
ここにたどり着くまでの間、何かに追い立てられるかのような焦燥感で、寝る間も惜しんで動いていたというのに。魔鉄の言葉には抗いがたい何か強制力のようなものがあった。
粗雑な気の器に注がれたスープを一口。適度な塩味と山菜の苦み。無意識のうちにホッと息が出る。
比較的あっさりとしたスープに対して、軽く炙った干し肉はガツンと旨みが脳内ではじけるようだった。
久しぶりのまともな食事。夢中で食べ進めるコーデリクをみて、魔鉄は微笑みながら酒を呑む。
「うめえだろ? どんな最低な状況でも、飯はうめえんだ」
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