第19話 油断

「コーデリク!!怪我は大丈夫ですか!?」


 残ったケルベロスのメンバーを屠り、拘束されているレイアを救い出したコーデリク。


 レイアが心配そうに駆け寄ってくる。


 実際、コーデリクの体は限界に近かった。


 雷の魔法。


 噂には聞いていたが、実際に目にしたのは初めての経験だ。


 魔法はその属性によって難度が変わるらしく、戦場で見たことのある魔法は炎の魔法か、水の魔法くらいだった。


 雷が直撃した時の激しい衝撃とダメージ。


 気力で立ち上がったものの、気を抜くとすぐにでも倒れてしまいそうだ。


 しかしレイアの目の前で、そんな弱音は吐いていられない。


「あぁ、大したことねえ。悪かったなレイア。怖い思いをさせちまった」


 少し、声が痛みで震えていたかもしれない。コーデリクのわかりやすい強がりに、レイアは小さく微笑んだ。


「ふふっ、いつの間にか名前で呼んでくれていますね」


「…………そういやそうだな。まあ、いつまでもお嬢ちゃん呼びなのもどうかと思ったしな」


「うれしいです。アナタが助けに来てくれた事も……名前で呼んでくれたことも」


 そしてレイアはギュッとコーデリクの巨体を抱きしめる。


 ボロボロになった金属鎧が彼女の柔肌を傷つけるが、そんなことは気にしていないようだった。


 コーデリクは少し戸惑った後、ぎこちない手つきで彼女の頭をぽんぽんと撫でる。


 しばらくそうしていた後、コーデリクが遠慮がちに提案をした。


「あー、そろそろ街に戻ろう。馬も殺されちまったから結構な距離歩かないといけねえが…………」


「ふふっ……そうですね。また二人で歩きましょう……か……」


 和やかな会話の途中、レイアの表情が固まった。


 不審に思ったコーデリクが振り返ると、仕留めた筈の死神が、こちらに向けて掌を向けている姿。


「”雷よ、ここに顕現せよ。万雷を持って我が敵を焼き殺せ”」


 バチバチと音を立てて展開される雷の魔法。


 走馬燈がコーデリクの脳内を駆け巡る。


(あぁ、ここが俺の人生の終着点か)


 思えばくだらない人生だった。


 生まれた時から異端で、忌み嫌われ、自分の居場所なんてなかった。


 魔鉄により新たな道を示された後もそれは変わらず、コーデリクはずっと一人で生きてきた。


 この鎧を差し出された時、魔鉄は世界を穿てと言った。


 世界なんて大きな事はわからない。


 自分自身の事すらわかっていないのだから。


「コーデリク!!」


 思いがけない事が起きた。


 隣にいた筈のレイアが、何故かコーデリクの目の前にいる。


 それはちょうど、コーデリクと死神の間。コーデリクを庇うようにして両手を広げ、そして振り返ってニコリと笑った。


「生きてコーデリク。アナタは死んではいけない人です」


 視界が真っ白に染まり。


 









 気がつくと、コーデリクの目の前には真っ黒に焦げた死体が転がっていた。



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