第17話 ケルベロス

「迎撃態勢を取れ、相手が一人だろうが油断はするな……ケルベロスに敗戦は許されん!」


 見張り番をしていた男が号令をかける。


 立ち上がったのはフード男を除いた全員。立ち上がる際に、戦闘のどさくさで逃げられないようにとレイアの隣にいた男が、彼女の両手両足を縄で拘束した。


 どうやらフードの男は傍観を決め込むようで、他のメンバーが戦闘態勢に入る中、一人座ってくつろいでいる。


 他メンバーの実力を信頼しているのか、それとも単に手伝う気が無いだけなのだろうか?


 巨馬に乗ったコーデリクが近づいてきた。


 右手には巨大な鉄製の盾。左手にはいつもの山賊刀ではなく、鉄の棒に鎖で繋がれたトゲ付きの鉄球という変わった武器、所謂モーニングスターが握られていた。


 左手のモーニングスターを大きく前方に振るう。


 コーデリクの怪力で振るわれた鎖は、凄まじいスピードでうねり、前方のケルベロス達へと襲いかかる。


 しかしケルベロスのメンバーも皆実力差。いくら威力とスピードがあろうが、こんな予備動作の大きな攻撃に当たる筈が無い。


 ひょいと身軽なステップで鉄球を回避。しかし凄まじい威力を秘めた鉄球は、乾いた地面を抉り、もうもうと砂埃を舞い上げた。


「目くらましか!?」


 モウモウと巻き上がった砂埃で視界が遮られる。


 そんな砂埃の中で、再びコーデリクはモーニングスターを振るった。


 視界ゼロの中高速で振るわれる鎖。コーデリク自身も狙いなどつけられない。しかしモーニングスターの圧倒的攻撃範囲が、ケルベロスの一人を巻き込んだ。


 いかに鍛え上げられた兵士といえど、コーデリクが全力で振るった鉄球に着弾すれば、ただではすまない。ボキボキと骨の折れる音と供に派手に吹き飛ばされる。


 仲間の様子を見た他のメンバーは、一瞬視線を会わせると、それぞれ別々に散った。相手の武器を考えると、一カ所に固まっていては一網打尽になりかねないからだ。


 砂埃の中、どこからか飛んできた暗器が、コーデリクが乗っていた巨馬の頭に突きささる。倒れる馬に巻き込まれないよう飛び退くコーデリク。


 左手に持ったモーニングスターを地面に投げ捨てて、腰の山賊刀を引き抜く。


 乗っていた馬に向かって凶器が飛んできた。つまり、すでにこの砂埃は意味をなしていない……位置を補足されているとみて良いだろう。


 そんな中、気配を消してコーデリクの背後に回り込む影が一つ。


 全身鎧を来ている相手に、普通の武器では防御を貫通することができない。手っ取り早い対策は、その鎧の隙間から刃を滑り込ませること。


 音も無き暗殺者が背後に忍び寄り…………振り返ったコーデリクの一撃により、その首は両断された。


「舐めるなよ。奇襲を受けた前回とは違う……伊達に戦場を生き抜いてはいないさ」


 為す術も無く殺された仲間を見ていたケルベロスメンバーが小さく舌打ちをした。


「……こちらには相手の鎧を突破できる装備の備えが無い……実力も相当なものだ。ここは撤退するのが吉か?」


 生き残っている仲間は3人、人質が一人。即席の指揮官は座りこんでおり動く様子を見せない……。


 冷静に状況を判断するなら、この砂埃の目くらましがあるうちに撤退するべきだ。

 そう判断したその時、今まで座りこんでいたフード男が立ち上がった。


「……どうやら苦戦しているようだねぇ。やはり当主様のご慧眼は正しかったというわけ……か」


 立ち上がったその男の通り名は ”死神”。


 狂気の天才魔法使い、ロイ・グラベルによって調整された ”戦闘用人工魔法使い”。


 フードの奥でギラリと光るその目は、勝利の確認に満ちていた。



 

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