第16話 ケルベロス


 無事対象を確保した ”ケルベロス” 達は、祖国へと帰る道中で、たき火を囲んで野営の準備をしていた。


 今回導入されたケルベロス部隊は4人と、ロイ・グラベルにより加えられた指揮官が一人。確保した元貴族の娘、レイア・ルイーズ・スターライトも含めて6人の集団は、日の暮れかけた荒野で粛々と先程狩ってきた鳥の肉を焼いていた。


「ほら、喰え」


 調理当番の男が、串に刺して良く焼いた鶏肉をレイアに差し出す。捕らわれたものの、レイアに対する扱いは意外にも悪くはなく、食事も十分に与えられていた。


 暗い顔をしたレイアは無言でそれを受け取ると、静かに頬張る。


 味なんてわからなかった。


 コーデリクは死んでしまったのだろうか? レイアの脳裏には、襲撃者の刃に切り刻まれた、真っ赤に染まった彼の姿が焼き付いている。


「しかし指揮官、この娘は殺しても良いという許可が下りていた筈です……わざわざ生かして祖国まで運ぶのは非効率的ではありませんか?」


 指揮官と呼ばれた人物は、フードを深く被っており、その顔が良く見えなかった。


 フードの男は静かな声で問いに答える。


「確かに殺害の許可は出ている。しかしこの娘はローガン様の貴重な実験材料だ。殺さずに置けるならその方がグラベル家のためになると判断した」


「……そんなもんですかね? 殺してしまった方が楽だと思うのですが」


 男のぼやきに、フードの男は少し怒ったような声を出す。


「貴様……偉大なるグラベル家に取って不利益になるとわかっていながらの発言か? 今の発言、温厚な私でも放ってはおけんぞ?」


「……申し訳ございません。私が愚かでした」


「わかれば良い……。下らぬ事で私の手を煩わせるな」


 今のやりとりから分かった事はいくつかある。


 まずは、この集団にとってフード姿の男の言うことは絶対であるということ。コーデリクを圧倒した実力者達が素直にいうことを聞くのは、彼がグラベル家からより強い権力を与えられているからなのか、それとも彼が他のメンバーより圧倒的に強いからなのか……。


 そして、フード男以外のメンバーは、それほどグラベル家に対する忠誠心が高くないのではないかとも感じた。


 どんな些細な出来事でも覚えておく。


 絶望的な状況、しかしレイアはまだ諦めてはいなかった。


 このままではどちらにせよ、自分はローガン・グラベルに殺されてしまうだろう。

 考える。


 どうしたらこの状況から抜け出すことができるのかを……。


「……おい、何か来たぞ?」


 戸惑ったような見張り番の男の声。その視線の先には、地平線の境界から何かが猛スピードでこちらに近寄ってくるのが見えた。


 それは見たことも無いほど分厚い板金鎧を全身に装備した重戦士。彼はその巨体にも引けを取らない見事な巨馬にまたがってこちらに単機で向かってきた。


「っ!? コーデリク!!」


 レイアは歓喜の気持のまま叫んだ。


 ”不動” と呼ばれる伝説の傭兵が、報復にやってきたのだった。




 

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