第15話 病室


 熱い。


 体中が熱を持っている。


 思考がぼんやりとして定まらない。


 まるで重力から解き放たれたような浮遊感と倦怠感。フワフワと体の感覚が無いまま、熱だけがそこに存在した。


 何かの液体が口の中に侵入してきた。


 ゆっくりと嚥下したソレは、澄んだ冷たさを持っており、熱のこもった内臓をじんわりと冷ましてくれた。


 荒かった呼吸が少し落ち着いてくる。


 石のように重い瞼を無理矢理こじ開けると、こちらを心配そうに覗き込む見知らぬ男の顔があった。


 男はコーデリクが目を開けた事を確認すると、安心したような表情をして手にした器をコーデリクの口元に持ってきた。


 中身を飲めという事だろうか?


 敵意は感じなかったので、コーデリクはなされるがまま口を開けて、器の中身を口内に迎え入れた。


 どうやら先程口にした液体と同じものらしい。何かの薬だろうか? 複雑なハーブの香りがする。


 そこでコーデリクの意識は再び闇の中へ落ちてゆく。












 どれだけの時間がたったのだろうか?


 ふと目を覚ますと、あの倦怠感と体の熱は消えていた。


 薄暗い見知らぬ部屋の中でベッドから状態を起こしたコーデリク。


 思考がはっきりとしている。ここはどこかの病院だろうか? 彼の巨体に合うサイズのベッドが無かったようで、いくつかのベッドをくっつけた場所に寝ている事に気がついた。


 即席の巨大ベッドから起き上がったコーデリク。全身を襲う痛みに顔をしかめるが、どうやら峠は越したらしく、痛み以外に支障は無さそうだった。


 どうやら誰か親切な奴が近くの病院までコーデリクの巨体を運んでくれたらしい。ありがたいことに、あれだけ切りさかれて、この桁外れの肉体はまだ生きることを諦めていなかった。


 ならばやることは一つ。


 見回すと、コーデリクの荷物はまとめて部屋の隅に置かれていた。金銭が減っているようすも無い。どうやら本当に親切な人物が運んでくれたようだ。


 コーデリクは感謝を込めてベッドの上に、治療費としては十分な量の金貨を置く。


 二人を襲撃した奴等は、恐らくグラベル家からの刺客であろう。ならば、この街からグラベルの家まで1日や2日でたどり着けはしないだろう。


 どれだけ寝ていたかはわからない。


 だが、まだ手遅れではない。


「……随分と舐めたマネをしてくれたな。待ってろ、すぐに追いついてやる」


 復讐に燃えるコーデリクは、粛々と準備を整え、病院を後にしたのだった。





◇  

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