第15話 病室
◇
熱い。
体中が熱を持っている。
思考がぼんやりとして定まらない。
まるで重力から解き放たれたような浮遊感と倦怠感。フワフワと体の感覚が無いまま、熱だけがそこに存在した。
何かの液体が口の中に侵入してきた。
ゆっくりと嚥下したソレは、澄んだ冷たさを持っており、熱のこもった内臓をじんわりと冷ましてくれた。
荒かった呼吸が少し落ち着いてくる。
石のように重い瞼を無理矢理こじ開けると、こちらを心配そうに覗き込む見知らぬ男の顔があった。
男はコーデリクが目を開けた事を確認すると、安心したような表情をして手にした器をコーデリクの口元に持ってきた。
中身を飲めという事だろうか?
敵意は感じなかったので、コーデリクはなされるがまま口を開けて、器の中身を口内に迎え入れた。
どうやら先程口にした液体と同じものらしい。何かの薬だろうか? 複雑なハーブの香りがする。
そこでコーデリクの意識は再び闇の中へ落ちてゆく。
どれだけの時間がたったのだろうか?
ふと目を覚ますと、あの倦怠感と体の熱は消えていた。
薄暗い見知らぬ部屋の中でベッドから状態を起こしたコーデリク。
思考がはっきりとしている。ここはどこかの病院だろうか? 彼の巨体に合うサイズのベッドが無かったようで、いくつかのベッドをくっつけた場所に寝ている事に気がついた。
即席の巨大ベッドから起き上がったコーデリク。全身を襲う痛みに顔をしかめるが、どうやら峠は越したらしく、痛み以外に支障は無さそうだった。
どうやら誰か親切な奴が近くの病院までコーデリクの巨体を運んでくれたらしい。ありがたいことに、あれだけ切りさかれて、この桁外れの肉体はまだ生きることを諦めていなかった。
ならばやることは一つ。
見回すと、コーデリクの荷物はまとめて部屋の隅に置かれていた。金銭が減っているようすも無い。どうやら本当に親切な人物が運んでくれたようだ。
コーデリクは感謝を込めてベッドの上に、治療費としては十分な量の金貨を置く。
二人を襲撃した奴等は、恐らくグラベル家からの刺客であろう。ならば、この街からグラベルの家まで1日や2日でたどり着けはしないだろう。
どれだけ寝ていたかはわからない。
だが、まだ手遅れではない。
「……随分と舐めたマネをしてくれたな。待ってろ、すぐに追いついてやる」
復讐に燃えるコーデリクは、粛々と準備を整え、病院を後にしたのだった。
◇
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