第14話 賑わう街
◇
「着いたぜ、とりあえず今日はこの街にとまって物資を補充しよう」
コーデリクとレイアがたどり着いた街は、商人の都と呼ばれている非常に人口の多い街である。
あらゆる大国の中継地点に存在するこの場所には、世界中のありとあらゆるモノが集まると言われていた。
「ここが ”商人の都” ですか! 噂には聞いていましたが、来たのは初めてです!」
目をキラキラさせて街の様子を観察するレイア。その可愛らしい様子に、コーデリクは柔らかく微笑んだ。
あの盗賊襲撃の一件以来、二人の距離は幾分か縮まったように感じられる。ずっと孤独であったコーデリクにとって、それは初めての感覚であった。
「しかしコーデリクさん、私は旅をするまで、旅人というものは皆現地で狩りをして食料を調達するものだと考えていました。今回の旅で、アナタが狩りをしなかったので少し驚いています」
「確かに現地で肉を調達する旅人もいるが、俺は別に狩りが得意では無い。極限状態であればやるだろうが、不得意な事を敢えてやらなくても、傭兵業で稼いだ金で携帯食を買う方が楽だからな」
「へぇー、そういうものですか」
何気ない会話を繰り広げる二人。
どこか気持の緩みがあったのだろうか? そうでなければ、歴戦の戦士であるコーデリクが垂れ流された殺気を察知できなかった筈が無いのだ。
ドスッという鈍い音と供に背中に衝撃。遅れてくる鈍い痛みが、コーデリクの意識を覚醒させる。
(刺された!? こんな街中で!?)
サッと振り返ると、相手はすでにコーデリクの射程範囲外に距離を取っていた。
見た目の特徴の無い男だ。特に武装している様子は無く、故に油断してしまったのだろう。その手には先程コーデリクの背中を刺した凶器が握られている。
刃渡り30センチほどのナイフ。刃先は血でべっとりと濡れている。
異変に気がついた周囲の通行人達が悲鳴を上げて離れる。結果、コーデリクとレイア、そして襲撃者の3人を囲む円のようなスペースができた。
「傷がっ……!?」
レイアの悲鳴をコーデリクは手で制した。
見たところかなりの手練れ、背中を刺されるなんて、街中だからといって普段は背負っていた盾を荷台に載せていた事が徒になってしまったようだ。
腰の山賊刀を抜き、構える。
背中の傷は深い……今は戦闘の興奮で痛みを感じていないが、全力で動けるのは数十秒という所だろう。
ピリリと張り詰めた空気。
その時、襲撃者がニヤリと笑った気がした。
背後から殺気。
サッと振り返ると、ソコには凶器を構えた別の襲撃者の姿。周囲の喧噪で近寄ってくる音に全く気がつかなかった。
振り下ろされた刃を、超人的な反射神経ではじき返す、しかし最初の襲撃者がその隙を逃す筈がない。
背後からスルリと近寄って刃で一撃。コーデリクの背を切り裂いた。
背中を一閃する灼熱の痛みに、コーデリクの思考は一瞬真っ白になる。
「ガァアアア!!!」
痛みに顔をしかめながら山賊刀を一閃するが、その時には相手はヒラリと射程範囲外に逃げていた。
一人一人の実力はコーデリクに及ばないだろう。しかし、相手はかなりの手練れ。無茶な攻撃は一切為ず、確実な場面でのみ攻撃を加えてくる。
二対一、絶望的な状況。しかしそれだけでは終わらなかった。
「キャァアアア!?」
レイアの悲鳴。
視線を向けると、そこには三人目の襲撃者の姿。
「レイアッ!?」
レイアに意識を向けたコーデリクに襲い来る残りの襲撃者達。打ち込まれる二つの斬撃。吹き出す鮮血。意識が遠のく。
ドサリとコーデリクの巨体が地面に崩れ落ちた。
レイアの悲鳴が聞こえる。薄れ行く意識の中、最後の力を振り絞って顔を上げると、先程の男達に連れ去られてゆくレイアの姿。
そして、コーデリクの意識は闇へと落ちたのだった。
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