第9話 かわいそうな子



「コーデリク、あぁコーデリク……かわいそうな子、不憫な子」


 幼き頃のコーデリクは、母親のそんな言葉を聞きながら育った。


 物心ついた時には、自身が他の子供達と比べて異質な存在であると自覚していた。

 明らかに高すぎる身長、過剰な腕力、大人のようなどっしりとした骨格………。子供ながらコーデリクは察していた。”自分は決して本気を出してはいけない” のだと。


 もしかして、自分は他の子より成長期が早く来ただけなのかもしれない。そんな希望は、彼が12歳になるころには粉々に打ち砕かれていた。


 同い年の子供どころか、周囲の大人達を見回しても自分より背丈の大きな人間はいない……。


「化け物め」


 それを言い出したのは誰だったか。


 流石に身体能力の突出したコーデリクに対し、正面からそう言う猛者はいなかったが、裏で化け物と呼ばれている事を、幼き頃のコーデリクは理解していた。


 友と呼べる存在は無く、周囲の大人達にも手を差し伸べられず、しかしその身の強靱さ故、直接手を手を出す者もいない。


 孤独。


 コーデリクはただ一人、誰とも関わらずにもくもくと畑を耕しつづけた。


「不憫な子……かわいそうな子」


 そんなコーデリクの状況に、ただ一人の肉親である母は、静かに涙を流したのだった。







 そんな緩やかな地獄の日々が、いつまでも続くのかと思われた。しかしコーデリクが16になったある日。彼女は村にやってきた。


「なんだい、しみったれた村だねえ」


 彼女は、まるで野性の肉食獣を思わせるような獰猛な雰囲気をまとっていた。


 まず眼を引くのは顔の半分を覆い隠す大きな眼帯。ここいらでは見ない、珍しい黒目に黒髪、長く伸ばした髪は雑に後ろでまとめられていた。


 眼帯で隠れていない右目がギラギラと妖しい光を放っている。


 大きな荷物を背負った彼女は、自身の事を鍛冶職人だと名乗った。この村の近くで、良い鉱物が取れると聞いてやってきたのだそうだ。


 村人達は、見たことも無い彼女の獰猛な雰囲気に気後れしている。コーデリクは、その様子を遠くで見守っていた。


 自分には関係の無い事、そう思っていたコーデリクであったが、何故か彼女は真っ直ぐにコーデリクの元へやってきた。


「よぉボウズ、テメェはこの村の中でも一番しみったれた面してやがるな」


 その言葉に、少しの驚きを覚えるコーデリク。彼の異様な体格を見て萎縮しない人物というのは初めてだったのだ。


「この世の終わりって、面してやがる・・・・・・気にくわねえ」


 そう言って彼女は背負っていた荷物から一本のツルハシを取り出すと、それをコーデリクに渡す。


「お前、アタシの仕事を手伝え。対価としてテメエの人生を変えてやんからよ」


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