第7話 旅路

 空を見ると日はまだ高くにある。どうにもレイアにはまだ寝床の準備をするには早いように感じられたのだ。


 レイアの問いに、コーデリクは事もなにげに答えた。


「そうだな、確かに日はまだ高い。しかし野宿をするにしても、最適な場所がすぐに見つかるとは限らないからな。急な天候の悪化への対応、火起こしができるか否か、危険な野獣、野党への対策ができるか……暗くなってからでは危険度は格段に増す。寝床の準備は命に直結する重要な事項だ」


 知らなかった。


 寝床の事だけではない。旅そのものが初めてなレイア、旅の知識など何も無く、護衛という契約をしているコーデリクに、旅のいろはを1から教えて貰っている状態だ。


 これはフェアではない。


 コーデリクはあくまで護衛として雇われているだけであって、旅の知識をレイアに伝授する必要は無いのだから。


 つまりこの会話は、全て彼の善意によるもの。


 普通の貴族ならばこの状況を恥だと思うだろう。


 しかし、今のレイアは貴族ではない。ならばこの状況で彼に言うべきことは一つしかなかった。


「ありがとうございます」


 急に感謝の言葉を述べたレイアに、コーデリクは驚いた表情を浮かべたのだった。








 コーデリクは周囲を観察しながら歩みを進める。


 少し荒れているとはいえ、ここは道が作られている。つまり、旅人が歩くことを前提に、宿屋がある可能性が高い。


 出来れば宿屋を見つけたいモノだった。 


 野宿ができる道具は持参してあるが、供に旅をしているレイアは旅に慣れていない。最初から野宿だと精神的にも負担が大きいだろう。


 先はまだ、長いのだから。


 そんな時、荒れた平野の遠くに、ポツリと小屋のようなものが見えた。


 まだ距離があり断定は出来ないが、宿屋かもしくは山小屋のようなものを発見できたようだ。


「取りあえず向こうの小屋へ向かおう。宿屋じゃなかったとしても、交渉して、いくらか謝礼を払えば止めてもらえるかもしれない」


 コーデリクの提案に、レイアはコクリと頷いた。


 目的地まで歩くと、小屋の外装はかなり年季が入っており、壁に使われている木材は黒ずんで、元の色がわからない程だった。


 コーデリクが扉をノックするが、中からの反応は無い。そっと押してみると、どうやらカギなどはかかっていないようだった。


 小屋の中に入る。


 小屋の中は机や椅子など、家具の類いが何も無く、誰かが生活しているという事は無さそうだった。


「誰もいませんね」


「あぁ。だが屋根と壁があるだけでありがたいし……どうやら暖炉もあるみたいだ。ありがたく使わせてもらおう」


 何の目的で建てられた小屋なのかはわからないが、夜を明かすのにはありがたい場所だった。

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