第6話 旅路
「そろそろ休憩にするか。足は大丈夫かいお嬢さん?」
コーデリクの少しからかうような問いに、レイアは少し拗ねたような顔をして頷いた。
「そろそろお嬢さんは止めてください。それに、私に対する気遣いは無用です……依頼主とはいえ、別に貴族のお嬢さん扱いして欲しいわけではありませんから」
「そうかい。からかって悪かったなレイア。しかし休憩はここでとろう。アンタは大丈夫でも、馬も適度に休ませないといけないからな」
そういって休憩に適当な場所を探すコーデリク。
先程は強がりを言ったものの、休憩の提案は正直ありがたかった。
慣れない徒歩での旅路。レイアの足は疲労で棒のようになっていたからだ。
「飯は用意してるかい? 俺は余分に持ってきているからよかったら一緒にどうだ?」
道ばたにあった、根元から折れている枯れ木の丸太にどっかりと腰を下ろしたコーデリク。愛馬の首をなでながら水を飲ませている。
レイアは国を出立する前に、近くの露店で簡単な旅支度を整えていたが、コーデリクに支払う依頼料を差し引くと、満足のいく量の食料品は買い込めなかった。
分けてくれるというのなら、甘えておくのが賢い選択肢だろう。
それに、こんな地に落ちた貴族の娘が、見栄など張って何になるというのだろうか。
「……では、お言葉に甘えて」
そう言ってそっとコーデリクの隣に座る。
近くで見るコーデリクはやはり巨大で、レイアは幼い頃に見た父の背中を幻視した。
「ほら、お口に合うかはわからんが腹には溜まる」
差し出されたのは、握り拳ほどの大きさのカサカサに乾いた茶色の物体。店に陳列されているモノとは随分違うが、それは恐らく何かの干し肉だろうと予想ができた。
「いただきます」
素直に受け取ったレイア。背負っていた荷を降ろして、中から水袋を取り出すと少しだけ給水をした(水が貴重な事はわかっているが、乾いた口で干し肉にかぶりつく気にはならなかった)。
手持ちのナイフで肉の塊を一口大に切り分けると、恐る恐る口に放り込む。
瞬間、その野性的な獣臭にレイアは顔をしかめた。
今まで食べたことのある店売の干し肉とは違う独特の風味。塩味がこれでもかと効いているのに、旨みはほとんど無かった。
「味はどうだ? 俺のお手製だ」
隣からかけられた声に、レイアは微妙な顔で振り向いた。
「……いただいた食料に言うことでは無いのですが…確かに酷い味ですね。何のお肉なのですか?」
「ふふっ、正直だな。そういうの嫌いじゃ無いぜ。この肉が不味いのは、俺が料理が苦手だって言うのもあるが……そもそもこの肉がまずいんだ。何の肉かは知らねえがな」
何の肉かわからない?
「それってどういう意味ですか?」
「なに、珍しい事じゃねえさ。闇市で捨て値で売られてる何の肉かわからないクズ肉をまとめて買って干し肉にしただけだ。まあ、不味いが節約にはなる」
節約。
レイアは無言でまた一口干し肉をかじる。
やはり、不味い。
弱小とはいえ、貴族であったレイアにとって、不味い食べものというのは初めての経験であった。
(それでも食べれるだけ幸せね。だって、それは生きられるって事だもの)
休憩を終え、二人と一頭は旅を再開する。
一応道はあるのだが、整備が行き届いておらず、足場の悪さというものが思っていたよりも体力を奪うのだと初めて知った。
初めての旅に悪戦苦闘しているレイアを見ながら、コーデリクは少し感心していた。
貴族の娘で、初めての、しかも徒歩の旅だ。すぐに音を上げるモノだとばかり思っていた。しかしレイアは、進む速度こそ遅いものの、一切音を上げず、不味い食事にもすぐに適応していた。
途中で音を上げるようなら、少し遠回りをして、周辺の国を経由しながら進むつもりだった。しかし、これならば最短で聖王国へ進む事も可能だろう。
「さて、そろそろ寝る場所を確保しなくてはな」
コーデリクの呟きに、レイアは疑問をぶつけた。
「まだ日の入りまでは時間がありますが、今から寝る場所の確保をするのですか?」
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