第3話 レイア
「やれやれ、お前以外と短気なんだな不動。まさかお前が動くとは思わなかったぜ」
気絶した男達を店の外に運ぶ団員達の姿を眺めながら、ロベルトは呆れた口調でコーデリクの肩をポンと叩いた。
当のコーデリクは無表情の中にどこかばつの悪そうな色を浮かべて、ポリポリと頬を掻きながらポツリと呟いた。
「すまんな、どうもあーいう手合いには我慢ができないんだ」
その謝罪に、ロベルトは一瞬キョトンとしたような表情を浮かべた後、大口を開けて笑いながらコーデリクの背中をバンバンと叩く。
「気にすんな不動! どのみちお前が動かなきゃ俺がやってた! ……しかし何だ、やっぱりお前は俺達の用兵団に加わるべきだと思うぞ?」
「どういう事だ?」
怪訝な顔をするコーデリクに、ロベルトは自身の頭をツルリと撫でながら返答する。
「世渡りが下手くそすぎんだよ。あんな手合いは無視するのが正解の生き方だ。……俺はな、お前みたいな生きるのが下手くそな奴らを集めて用兵団作ってんだよ。一人ではどうにも出来ないことも、人数がいればどうにかなることも多いからな」
ロベルトの言うことには納得が出来た。
そしてコーデリク自身、ロベルトという男の事は気に入っていたし、彼の提案は魅力的だった……しかし
「お前の提案は魅力的だと思う……だが、やはり俺は誰かの下につく気はないんだ」
頑ななコーデリクに、ロベルトはやれやれと首を横に振る。
「しかたねえな。まあ、無理に入れとは言わねえからよ……また一緒に仕事しようや」
そして宙に差し出されたロベルトの右拳。
コーデリクはニヤリと笑ってこの拳に、自身の巨大な拳を重ねたのだった。
「さぁて、この禿げ頭に教えてくれやお嬢さん。アンタは何者で……さっき横のデカブツが気絶させたこいつらは何者だい? 返答によっちゃあ、今から全力で国外逃亡しないといけねえんだが……」
先程の男達は、明らかにプロの雰囲気を纏わせていた。
仮に彼らが国の正規兵だった場合、この状況は非常によろしくない。ならばこそ行動は迅速に、とっとと別の国に逃げるが吉だろう。
尋ねられた女は、小さく頷くと目深に被っていたフードを外してその素顔を顕わにした。
まず眼を引くのは柔らかに流れる銀の長髪。絶世の美女という訳では無いが、少し幼さの可愛らしい顔立ちをしていた。
「……助けていただきありがとうございます。私はレイアと申します……お礼を差し上げたいのですが、申し訳ございません。今何も持っていなくて……」
「いや、お礼とかはいいんだけどよぉ……差し支えなければ何で追いかけられていたのか教えてくれるかい? それが無理ならアイツらが何者なのかだけでも知りてぇんだけど」
「そうでしたね、失礼致しました。私を追いかけてきたアイツらは……恐らくグラベル家の私兵ですね」
「グラベル家って……あのグラベル家かい!?」
驚いたように繰り返すロベルト。
無理も無い。彼女の口からでた ”グラベル”という名前は、この近隣諸国で轟いている有名な一族なのだから。
「……魔法の名門であるグラベル家…その長子であるローガン・グラベルに私は追われているのです」
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