第4話 依頼

「……グラベルっていやあ、世界的にも有名な魔法使いの名門だろ? 嬢ちゃんは何てそんな大物に狙われてんだ?」


 ロベルトの問いに、レイアは小さく頷いて自らの身の上を話し出した。


「グラベル家の長子、ローガン・グラベルと私は婚約者ということになるでしょうか……私は弱小貴族の娘でして……グラベル家の当主、ロイ・グラベルと我が父によって私とローガンの婚約が決められました」


「ローガン・グラベルと婚約だぁ? グラベル家は貴族でこそ無いが、その影響力は世界規模……下手したらそこいらの王族よりも地位は上だぜ?」


 ロベルトの疑問はもっともだ。


 それほどまでにグラベル家のブランドは絶大で、ロベルトは、今すぐに気絶した私兵達を証拠隠滅に殺しておくべきかとチラリと確認をした。


 グラベル家と敵対することは愚行だ。想定していたよりも遠くに逃げる必要があるだろう。


「正直、私もその事実を知った時には混乱しました。しかし家の為だからと父に説得され、グラベル家の門を叩いたのです」


 グラベル家へとやってきたレイア。


 しかし、当のローガン・グラベルはレイアに顔を見せることは無かったという。


 レイアに与えられたのは、小さな部屋と使用人が一人……。その場所でレイアはしばらくの間軟禁状態だったそうだ。


「何が何だかわかりませんでした。使用人に質問をしても一切答えてくれず……食事などの世話はきちんとして下さいましたので、生活に不自由は無かったのですが…」


「不気味な話だな……で、お嬢ちゃんはなんで逃げてきたんだ?」


「はい……ある日、何故か部屋の鍵が開いている事に気がつきました。狭い部屋での生活に飽き飽きしていた私は、興味本位で館の中を探索してみることにしたのです」


 そして彼女は目撃したという。


 館の地下に軟禁されている女性達の姿を。


「何人かは見覚えのある娘もいました。知り合いの貴族の娘達です。彼女たちは私の方を見て ”逃げろ”と言いました」


 そしてレイアは逃げ出した。


 どうやってあの館から逃げることが出来たのかは覚えていない。


 そして、自分の中にこんなにも力が眠っていたというのも意外だったが、何とレイアは一人の力でグラベル家からこの酒場まで逃げてきたというのだ。


「……なるほどね。世界のグラベル家の内情は真っ黒だったってか……まあ、別に驚きはしねえがよ。そんで、お嬢ちゃんはこれからどうするんだい? 実家に帰るって訳にもいかねえだろう?」


「はい……、聖王国の大神殿に匿って貰おうかと考えております。いかにグラベル家が強大でも、教会勢力には手が出せないと思いますので」


「確かに、教会勢力に匿って貰えれば安心だわな。だが、ここから聖王国まで結構な距離があるぜ? 追っ手がアイツらだけって訳でも無いだろう?」


「はい…ですから、お願いがあるのです。依頼と言い換えても良い……どうか、聖王国まで私を護衛してはくれませんか? お金は持って逃げてきたので、依頼料はお支払いいたします」


 女一人で追っ手から逃げるなんて無茶な話だ。


 かといって、正規の手順で護衛を依頼するとグラベル家にバレてしまう確立が高い。


 故にレイアは、この酒場を拠点にしているロベルトの用米団に依頼をするためにやってきたのだという。


 レイアからの依頼に、ロベルトは難しい顔をして腕を組んだ。


 身の上を聞いた限りでは悪い子では無さそうだし、心情としては護衛を引き受けたい……しかし、相手が相手な以上、団の未来のためにも安請け合いはできなかった。


 悩んでいるロベルトの肩を、隣で話を聞いていたコーデリクがポンと叩いた。


「じゃあ俺が依頼を受けよう。用兵団だと大所帯になって見つかりやすいだろう? それに奴等を叩きのめしたのは俺だからな……責任は取るさ」


 そしてコーデリクはその巨大な右手をスッとレイアに差し出して不器用に笑う。

「よろしくな、貴族のお嬢ちゃん」




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