ぶーイング!! 

 ブーブーと声がする。筆舌尽くしがたい音を鳴らしながら騒ぐ声が聞こえる。


――おらっ! おらっ! どけやどけや、そこをどけ愚図どもめっ!!


――お前らのターンは終わったんだよ! 今からこっちのターンだ!! わかったか!


「なあ、あいつらの声ってめっちゃあれみたいだよな。フランス人。なんかフガフガ言ってる」

「お前フランス人にどやされるぞ」

「いや、だってめっちゃ似てる。イベリコ豚……イベリコ豚ってフランス?」

「スペインだよ。お前そんなんだから留年しかけてんじゃねえの」

「あぁ!? うっせえわ」

「顔赤いぞ」

「頭に血が上ってんだよ馬鹿野郎。お前もじゃねえか」

「確かに」


 暖簾のように垂れ下がった髪がうっとおしい。ああ、美容院に行くのを恐れずに切ればよかったかな。そんなことを長髪の彼は思う。

 このままでは手足がうっ血してしてしまうので、早くおろしてくんねえかな、と茶髪の彼は思う。

 二人とも、ミノムシのようにぐるぐる巻きにされている。


 会場は大盛り上がりだ。どの牧場にもあるようなフォークを持って、やいのやいの騒いでいる。


 ――タイムワープに失敗した科学者みたいな間抜け面だな! そんなに驚いたか!


「俺たち豚の丸焼きみたいにされんのかね……」

「いや……さすがにそれは……俺ら歩いてただけだし。牧場主じゃねえし。ビッグフットの方が良心あると思う」

「お前ビックフットの友達なん?」

「実は親戚」

「ほざけ」

「んふふ」


 髪を揺らして笑う長髪の彼を、茶髪が見てため息をつく。のんきな奴だ。もうずっとハムみたいに吊るされているのに……。

 ただ歩いていただけだったのに。この牧場って何がいるんだっけ? 豚じゃなかったかな。そんな会話をしていたら、ズドン。

 落とし穴に真っ逆さまだ。


 ――俺たちが馬鹿だとでも思ってたんだろう! いんや、賢いぜ俺たちは! 賢いんだぜ!!


「……豚ってさあ」

「は?」

「いや、豚って実はめっちゃ賢いらしい」

「へぇ」

「カラスとか、イルカとかよりも、ずっと賢いんだとさ」

「チンパンジーよりも?」

「多分」

「そりゃ見事」

「豚って案外ハイスペック説。脂肪も少ないし。もはや誉め言葉かもしれん」

「お前なんでさっきからそんな余裕なわけ?」


 茶髪は上半身を頑張って起こし、頭に上っていた血を下ろした。しかしすぐに腹筋が痛くなって元の姿勢に戻った。


「腹筋鍛えられるな」

「うるせえわ」

 

 この貞子もどきを蹴り飛ばしてやろうかと、茶髪は考えた。が、すぐに文字通り手も足も出ないのを思い出してあきらめた。


「でもまじな話、なんでそんな落ち着いてんだよ」

「言ったじゃん。豚は賢いって。だからちゃんと話せば関係ない俺らは開放してもらえると思うのよね。恨まれてるのは牧場主だし。あいつなにしたんだろ」

「……そもそもアレって豚か?」


――おいっ! うるさいぞニンゲン! ミノムシみたいに身動き取れないくせに! ミノムシはミノムシらしくジッとしてろ!


 フガフガ言いながら怒号が飛ぶ。確かに豚が1番ピッタリくる見た目の生き物だけど……豚の方がもっと可愛い気がした。


「今めっちゃ盛り上がってるから、水差すんじゃねえ! って感じかな」


 んふふ、とのんきな笑い声が聞こえる。

 

 彼らが賢者のように落ち着くのを待てというのだろうか。今、こんなにどんちゃん騒ぎしているのに。歌って、踊って、回って、叫んでいるのに?


 いったいいつになるというんだ。



 とことん疲れ果てて、茶髪の彼は大きくため息をついて、不満そうに鳴いた。




「ぶーぶー」


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