9らげ
えっと、どこから話しましょうか。夢の話からですかね。
そうですね、夢を見たんですよ。ある日ね。三連休明けの、いつもより疲れのたまった火曜日の夜なんですけども。俺は家の中でテレビを見ていまして、そしたら、最近の成人男性は全然運動しない。だからメタボが増えていくんだ。なんてことをテレビで言ってまして。自分ももうアラサーで、そういやぁ実家のおやじは見事なビール腹だったな……って思って。だから歩くことにしたんです。
なんか桜でも咲いてんじゃないかな。って。もう夕方だったんですけど、犬の散歩してる人とか、なんでか上半身裸でランニングしてる人とかいて。なんかそんな人達と出くわしたくなかったから、人が全然通らないような、路地裏みたいな裏道をうろついていたんですよ。……夢の中でね。
そしたら、行き止まりみたいなところに何かいて。エメラルド色のでっけぇやつで。クラゲみたいなやつ。触手みたいなのが五本あって、真ん中の奴が一番長いんですけど、それはなんていうか、エイの尻尾みたいな奴で。ああ、見たらわかりますかね。
それで、そんな奴が陸に、夕日を浴びて突っ立てるから、びっくりして立ち止まったら、そいつが振り返ったんです。
あ、でも、案外かわいい顔してるでしょ?(❚ ❚)
まあ、それはさておき、そいつはこっちにフヨフヨ寄ってきて、俺を見下ろすんですよ。でかいから。そしたら必然的にそいつの顎裏というか、口元というか、傘の中身みたいなのが見えるんですけど。すげえ立派なギザ歯があって。
俺、食われたんすよ、そいつに。カパッて口開けて、あ、中にもう一個口あるなあとか考えてたんですけど。ウツボって、なんか口二つあるじゃないっすか。あんな感じ。
夢の中なのに普通に痛かったんですけどね。二重で刺さるし。
口の中には宇宙があって、結構きれいだったんですよ。なんか星が一個爆発しててまぶしかったけど。
そこで目が覚めました。
変な夢だったなあとか思いながら、外に出たんすね。夢の中のテレビが言ってた内容がやっぱ気になっちゃったんですよ。メタボは嫌だし。
適当な靴はいて、外に出たら……いたんすよね。こいつ。
ボケっと空見てて、俺が玄関から出たら「おっ、来たか」みたいな感じで、またカパッと口を開けて、俺の頭を口の中に入れたんですよ。夢だけど、夢じゃなかったってやつっすね。これがいわゆる。
だからこれ、被り物じゃないです。
話してる俺の口元見えてると思うんすけど、よく見ると、ちょっと血がにじんでるでしょ。甘噛みにしてくれてはいるけど、やっぱ刺さってるので。血も出ちゃうんですよねぇ。
なんで生きてんの、って反応ですね。
俺もそれがびっくりで。だって外見たら、首無しがたくさん寝てますもん。でも、どうやら只の相性見たいですよ。
こいつは俺のことが気に入ったみたいで。食べるよりも、頭に乗っていたいみたいです。あはは
かわいいですよ。なんだか愛着がわいているんです。口の中の景色もなかなか綺麗だし。外が見たいって言ったら見せてくれますしね。どんな原理かは知らないけど。
あなたも出会えるといいですね。素敵な奴に。こいつと一緒になってから、結構気が楽になりました。ウジウジ悩まなくなったんです。
せっかくだし、外に出てみたらどうですか。ほら、いっぱいいますよ。
何も怖くないですよ?
食べられるか、気に入られるかの二択ですしね。
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