72センチ目「ネバーエンド」
俺は寝ぼけ眼を擦こすりながら、目を覚ました。
お腹の上にずしりとした感覚があって寝苦しいので、目が覚めてしまったのだ。
「起きて、クウ! もう朝だよ!」
「うーん……あと五分だけ……」
「それ、さっきも聞いた! 早く起きないとちこくしちゃうよ!」
布団を剥がれた俺は、成す術なく外気に晒され、強引に起き上がらされた。
クリアに手を引かれながら、部屋を出て、一階へと続く階段を下りていく。
「
「うん! 起こしたよ!」
「ありがとう。おかげで起こしに行く手間が省けて助かるわ」
俺は朝ご飯のトーストを二枚トースターに入れると、席についた。その隣にはすでにクリアが座っている。
「久里亜、学校にはもう慣れた?」
「うん。楽しいよ!」
「そっか。良かった良かった」
クリアは親戚のところに預けられていたが、紫央姉が就職したことで晴れて一緒に住めることになった、年の離れた妹――という設定になっている。
透明感のあったあの長髪は、いまや日本人然とした黒髪に変化している。おそらくこれも、人間になじめるようにというツクモ様の厚意だろう。
「んじゃ、私は先に出るから。あとよろしくね」
「はいよ。行ってらっしゃい」
紫央姉を玄関で見送ると、俺たちはほっとため息をついた。
「俺、バレないか未だにヒヤヒヤするよ……」
「わたしも。なんかへんなかんじ」
ツクモ様の作った設定には結構強引なところがあるから、うっかり口を滑らせて不審がられてしまわないか心配になるのだ。
二人でくすりと笑い合うと、俺たちは食卓へと戻る。
焼けたトーストを頬張りながらテレビを眺めていると、たまたま瑠璃がワイドショーの特集で出演しているところだった。
「売れたなぁ、瑠璃」
ツーピースバンドとして再出発した瑠璃とジェフは、弾き語りをしていた際にその実力がレコード会社に見初められ、期待の新人として売り出されることになった。
何度も会っている知り合いをこうして画面越しに見ると、何だか感慨深い。
「さて、そろそろ行こうか」
「うん!」
仕度を終えた俺たちは、学校へと向かうことにした。
「空くん! クリアちゃん!」
道中、声をかけられて俺たちは振り返った。そこには、春菜とゴンタ、それとイリスが立っていた。ゴンタはクリアと同じ中学校のブレザーを着ている。
「おはよう、二人とも。今日は早いね」
「一限があるんで、クリアに叩き起こされたからな」
「クウが起きるのおそいんだよ!」
春菜とゴンタはそのやり取りを見てくすくすと笑った。
「あっそうそう、豪さんからの連絡来てたけど見た?」
「いや、見てない。なんだって?」
「今度、俊彦さんとおたまさんの店でオフ会をやろうって。『エウレカ』のメンバーだけじゃなくて、元『
「いいねぇ。会うのは久しぶりだから楽しみだな」
激闘を繰り広げた彼らとも、事が終わってしまえば同じ戦いを経験した仲だ。話したいことは山ほどある。
期待に胸を膨らませながら、俺たちは並木道を歩いていく。
俺がツクモ様に願ったのは「全てのツクモが幸せに生きられますように」というなんともアバウトなものだった。
その結果、ほぼ全てのツクモが元の持ち主との関係性を保ったまま復活することになったのだ。
今ごろ天使たちは、俺の願いの後処理でてんやわんやしている頃だろう。ナターシャの不平不満を聞くのが大変だったのはまた別の話だ。
「そういや、イリスはこっちにいていいのか? いま忙しいんだろ?」
「私は引き続きこちらの世界での任務を担当することになったので、問題ありません」
「そうか。じゃあまた食堂のアイス、食べられるな」
「そ、それもありますが……やはり人間の感情というものを学びたいというのもありますから。これからも勉強させていただきます」
イリスもまた、一歩ずつ成長しているのだろう。前に比べて表情が穏やかになったように見える。
みんながこうして望んだ結末を得られたのも、クリアが俺の下に来てくれたことがきっかけだ。
俺が何の気無しに見下ろすと、クリアはキョトンとした様子で振り向いた。
「なぁに、クウ?」
「あのさ……」
「うん?」
俺は温かい気持ちと気恥ずかしさを同時に感じながら、そっぽを向いた。
「……なんでもない!」
「気になるよ! なぁに!」
「教えなーい!」
「こらー! まてー!」
俺はクリアと追いかけっこしながら、終わらないこの平和な日常を全身で謳歌するのだった。
ツクモガミ!~美少女になった俺の定規と最強のコンビ目指して戦い抜く~ 狼上こず @Marasmius_kozu
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