59センチ目「想いの大きさ」
敵のあまりの巨大さに心が折れそうになった俺の肩に、豪さんは優しく手を置いた。
「諦めるな、
「豪さん……」
「ケン。まだやれるな?」
「もちろんです、師匠」
ケンはやる気ありと言いたげな気迫のある顔でうなずいた。
「クウ、わたしもやれるよ。だからあきらめないで」
「ツクモが戦う気満々なのに、持ち主の俺が折れてちゃダメだよな……!」
俺は弱気になってしまった心を奮い立たせるため、自分の頬を両手で叩くと、改めてダイダラに向き直った。
ダイダラはふんと鼻を鳴らすと、こちらに向けて薙刀を構える。
「さあ、覚悟はできたか?」
「ああ……お前を倒す覚悟がな!
「
「上等だ! ならばすり潰すまでよ!」
ダイダラは薙刀を大きく振りかぶって、クリアたちに襲いかかった。
「クリア! 無闇に突っ込むな! 相手の動きをよく見ろ!」
「わかった!」
豪さんのアドバイスに従って、クリアは振り下ろされる薙刀をしっかりと直視し、皮一枚のところで避けていく。
そしてケンも同様に、ダイダラの斬撃をするすると回避していった。
ちょこまかと動き回る二人に苛立ったのか、ダイダラは闇雲に薙刀を振るい始めた。
大振りな薙ぎ払いに対し、ケンは跳び上がってそれを避ける。
一方、クリアは身を屈めながらダイダラの足元へ潜り込むと、その左足に半透明の刃を突き立てた。
「ぬうっ……!」
ダイダラは痛みに顔を歪めながら、クリアを踏み潰そうとする。
「
その瞬間、ダイダラの足首にギターの弦が巻きつき、攻撃を妨げた。
とっさに足を上げてジェフを引き寄せようとしたダイダラだったが、今度は上手くいかなかった。
部屋の柱に弦を予め巻きつけることによって、ジェフは自分の体が引き寄せられてしまうことを防いだのだった。
体勢を崩したダイダラは、片足でふらふらと立っている状態から、無理やりに薙刀を振るう。次に狙いを定められたのは、後衛のミラだった。
その攻撃に応じて、美咲は大声で叫んだ。
「
再び空中に出現した巨大な鏡と、薙刀の刃が拮抗する。ミラは苦しそうな表情を浮かべながらその場に踏ん張った。
「
「ああ!」
〈クリア、いくぞ!〉
〈うん!〉
クリアはテレパシーで送られた掛け声に応じて、バックステップでダイダラとの距離を取ると、両手を高々と挙げた。
「
エネルギーが渦を巻き、クリアの頭上に巨大な定規が形作られる。
その瞬間、大鏡が攻撃の威力に耐えきれずに砕け散った。薙刀の一撃が容赦なくミラに襲い掛かる。
「きゃああああああっ!」
鏡にぶつかって勢いを失っていたとはいえ、薙刀の膨大な質量をもろに食らっては、ひとたまりもない。ミラは地面に強烈に叩き付けられ、そのまま動かなくなった。
「ミラ!」
〈クリア! 前を向け! ミラの努力を無駄にするな!〉
〈うん……!〉
クリアは一瞬辛そうに振り返ったが、すぐにダイダラの方へ向き直った。
手が振り下ろされると同時に、巨大定規はダイダラの腹部目掛けて薙ぎ払われた。
ダイダラは薙刀の柄の部分を使って、クリアの
「この程度の攻撃、びくともせんわ!」
ダイダラはしっかりと両足で踏ん張りながらそう言い放った。
クリアは歯を食いしばりながら両手を前に突き出すも、巨大定規は徐々に押し返されていく。見かねた俺は、クリアの両肩に手を当てた。
「クリア! このまま負けていいのか! いままでに戦ってきた相手たちのことを思い出せ!」
「ふんぬぬぬぬぬ……!」
俺の掛け声を聞いたクリアは、負けじと両腕に力を込める。
ダイダラは、若干背を反りながら再び後ろへと押し込まれていく。
いまなら、豪さんが言っていた意味が分かる気がした。ただ単に互いのパワーだけが勝敗を左右するのではない。そこに込める気持ちや想いも含めて初めて、一撃の重みとなるのだ。
「なにっ!? なぜこれほどまでの威力を……!」
「お前とは、背負ってるものの重みが違うんだよ! その全身で受け止めてみろ!」
「うおおっ……!」
ダイダラの持っている薙刀が、ミシミシと音を立てて曲がっていく。やがてそれは、中ほどでぽっきり二つに折れた。
巨大定規は勢いをそのままに、ダイダラの腹部の留魂石を狙う。
「くそっ! このままやられてたまるか! 硬化(ハーデン)!」
ダイダラの劣勢を目の当たりにした僧侶の男は、慌ててスキルを唱えた。
硬化した留魂石とクリアの
「「いっけえええええええええええええ!!」」
俺とクリアは同時に叫んだ。ダイダラの体がくの字に折れ、壁に叩きつけられる。
留魂石が粉々に砕け散ったダイダラは、気絶して床の上にくずおれた。あれほどまでに苦戦したというのに、最後はなんともあっけないものだ。
「ひいっ!」
徐々に存在が薄くなり消滅していくダイダラを目にした僧侶の男は、一目散に逃げ出した。
虎の威を借る狐といったところだろうか。その姿には、先程までの威勢の良さは微塵も感じられなかった。
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