58センチ目「だいだらぼっち」
俺たちは、ついに二階へとたどり着いた。
周囲を警戒しながら、細長い廊下を通っていく。
そのとき、柱の陰にちらりと人影が見え、俺たちは立ち止まった。
「誰だ!」
敵かもしれないと思い、俺たちはとっさに身構える。
警戒する俺たちの前に現れたのは、豪さん率いる四人組だった。どうやら別の階段から上ってきたらしい。
「豪さん!」
「無事だったか、
お互いの存在を確かめ合うように、俺たちは寄り集まった。
「他のみんなは?」
「下の階で戦っているよ。そちらは?」
「途中で分断されちゃったんです。だから、春菜たちがいまどうしているかは分かりません」
「そうか……」
いまはただ、彼女たちの無事を祈ることしかできなかった。
軽く情報交換を終えた俺たちは、気を取り直して、先へと進んでいく。
この先にきっと王城竜馬がいるはずだ。
そう思い、次の部屋へ続く扉をくぐった俺たちは度肝を抜かれた。
「でっか!」
ミラが叫ぶのも無理はない。
そこには、優に十メートルはあろうかという巨人が待ち構えていた。
うぐいす色の着物を身にまとい、仁王立ちしている。天井まで届きそうなその巨躯に、俺たちは圧倒された。
そしてその隣には、足元に寄り添うようにして、僧侶の格好をした坊主頭の男が立っている。
「来たな、この不届き者め」
「竜馬様のところへは何があっても通さぬ」
巨人はそう言うと、両手を合わせて拝むようなポーズでこちらをにらみつけた。
「
「種族:大仏、スキル:
「この巨体でスキルまで持ってんのかよ!?」
「マジぱねぇっしょ……!」
動揺する俺たちをよそに、ケンは冷静に拳を構えた。
「ここを通らなければ王城竜馬には会えんのだ。やるしかないだろう」
「そうですよね!
「どうやら、向かってくるつもりのようだな。それでは遠慮なくやらせてもらう! 踏み潰せ、ダイダラ!」」
「おおぉ!」
ダイダラと呼ばれた巨人は俺たちに向かって大股で突進してきた。ケンとクリアはそれを横ステップでかわす。
「
瑠璃がスキルを唱えると、ジェフの手からギターの弦が伸びていき、ダイダラの左足を捕らえた。
しかし、ダイダラは全く体勢を崩すことなく、ジェフをにらみつけた。
「小賢しい!」
「うおっ!?」
ダイダラが左足を振り上げると、ジェフは弦ごと引っ張られて空中に高々と舞い上がった。
「まずいっ――!」
「
ダイダラが振り抜いた拳は、ミラが出現させた巨大な鏡に弾かれて斜め上方へと跳ね返った。
予想外の出来事にダイダラが体勢を崩してよろけている間に、ジェフは床の上に着地し、ダイダラの攻撃範囲から走って離脱した。
そして、クリアとケンはその隙を見逃さなかった。
二人はダイダラの体を器用に駆け上がると、右の頬を目掛けて拳を叩き込んだ。
「ぐおおっ……!」
重心を大きく揺らされたダイダラはたまらず、後ろにこけて尻餅をついた。
「まずは一本ってところだな」
俺が人差し指を立ててみせると、僧侶の男は悔しそうに歯噛みした。
「ダイダラ! 一人一人は小さいが、この数は厄介だ! スキルを使うぞ!」
「おお……頼む……!」
よろよろと立ち上がりながら、ダイダラはこちらをにらみつけた。
「
僧侶の男がスキルを唱えると、ダイダラの手中にその身長と同じサイズの薙刀が出現した。
シンプルながらも精巧な模様が持ち手全体に彫り込まれており、見るに美しい。それが敵の武器でなければ、いまごろ見惚れているところだっただろう。
ダイダラが演舞のようにぐるぐるとその薙刀を振り回すと、大きな風切り音が室内に響き渡った。
「次はああはいかんぞ!」
ダイダラはクリアとケンに向かって、薙刀を上から思い切り叩きつけた。
その速度は想像していた以上に速く、クリアとケンはすんでのところで横に跳んでなんとかそれを避けた。
迫りくる巨大な質量が床に大きなひびを入れ、腹の底にまで響くようなずんという衝撃が部屋を揺らす。
「それは反則だろ……!」
放たれた攻撃のあまりの威力に目を見張るのも束の間、今度はダイダラは横薙ぎに薙刀を振るった。
「クールタイムは!?」
「まだ!」
「ちぃっ……!
ケンが竹刀を握っているときのような格好で両手を構えると、頭上にエネルギーの奔流が巻き起こり、浮遊する巨大な籠手に握られた竹刀が出現した。
その竹刀は襲い掛かってくるダイダラの薙刀をしっかりと受け止めた。大質量の物体同士が衝突し、ガツンという鈍い音が鳴り響く。
「おおおおおおおお!!」
ケンは続けて二合、三合と切り結んでいく。その度に、竹刀は薙刀に切り刻まれてボロボロになっていく。
やがて、大上段の振り下ろしを受け止めた竹刀はぐしゃりと折れるようにして消滅した。
「もう終わりか?」
ダイダラは涼しい顔で薙刀を肩に担ぐと、ずんずんと足音を鳴らしながらこちらに歩み寄ってくる。
「こんなの、どうやって倒せっていうんだよ……!?」
絶望に打ちひしがれた俺は思わずそう呟いた。
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