15センチ目「空と春菜の神隠し」
俺たちオカ研の主な活動は、週に一度か二度、話題になっている都市伝説や心霊スポットを調査しに行くというものだ。
調査といっても、冷やかしではない。その現象が本当に起こりうるのか、起こるとしたらなぜそれは発生するのか、噂が発祥した経緯を突き止めることに主眼がある。
俺たちのやっていることは、どれかといえば民俗学の研究に近いだろう。実際に、その筋の専門家に問い合わせたこともあるくらいだ。
そんなわけで、今日も俺たちは真面目にオカルティックな活動をするのだった。
今回の目的地は、神隠しの噂がある玉鳥(たまとり)神社だ。新垣(あらがき)先輩がSNSで話題になっているのを見つけ、それに高坂(こうさか)先輩が食いついたということらしい。
俺たちはいま新垣先輩が運転する車に乗って、件(くだん)の玉鳥神社に向かっているところだ。
「しかし、いまどき本当に神隠しなんてあるんですかね」
「失踪者は日本全国で年間八万人以上いるらしい。その中のいくつかの事例に似通った傾向があれば、神隠しと呼ばれる可能性は十分にあるだろうな」
「なるほどねぇ」
俺はなおも半信半疑でうなずいた。そんなにぽんぽんと失踪者が出てはたまらない。なにかの事件に巻き込まれたとか、そういうことではないのか。
「着いたぞ」
新垣先輩は神社の専用駐車場に車を止めた。ここから先は徒歩になるようだ。車から降りると、境内に向かう石階段が見えた。
「俺、神社なんて初詣(はつもうで)以来ですよ」
「私も、恥ずかしながら空くんと同じです」
「おっ、さては二人ともあまり
「私は主に調査で行くことが多いな。まあ、それでも一応お祈りをして帰るがね」
先輩たちは日頃から神社に親しんでいるようだ。最近は御朱印集めがスタンプラリー感覚で流行っているし、そう珍しいことではないのかもしれない。
階段を登り切って鳥居をくぐると、そこには小さな神社があった。手入れはそこそこ行き届いているようで、寂れた感じは見受けられない。
周囲に目を向けると、掃除している神主らしき人物を発見した。高坂先輩はすかさずその男性の方に向かっていった。
「こんにちは。神主さんでいらっしゃいますか?」
「ええ、私が神主です。学生さんかな?」
「はい。最近若者の間で話題になっていると聞いて、調査にやってきました」
単刀直入に言うなぁ、と俺は感心した。自分だったらビビってしまって、世間話だけで終えてしまいそうだ。
神主はそれを聞くと、白髪頭をかきながら困ったような笑顔を浮かべた。
「神隠しなんて馬鹿げた話、あるわけないじゃないですか。変な噂を流されて、こちらとしては困っているんですよ」
「そうですか。私たちも噂で済むならそれが一番いいと思っています。参拝しても?」
「ええ、ご自由にどうぞ」
神主は優しくうなずいた。もしかしたら追い返されるかもしれないと思っていた俺は、親切な神主さんで良かったと思い、ほっとした。
俺たちは会釈すると、玉砂利を踏みながら社へと向かった。
「ここに来る前、この神社周辺の歴史について文献を軽く漁ってみたが、特にそういった伝承や逸話は見つからなかった。ここ最近生まれた都市伝説と言っていいだろう」
「それってつまり、噂を最初に流した犯人がいるってことですか?」
「そういうことになるな」
誰が何のためにそんなことをしたのだろう。この神社に恨みでもあるのだろうか。謎は深まるばかりだった。
「考え込むのもいいけど、とりあえずお参りしようぜ」
「あっ、はい」
俺は新垣先輩に促され、お賽銭用の小銭を取り出した。
四人で横に並び、二礼二拍手一礼をして神に詣でる。心がすっと軽くなって、清らかな気持ちになれた気がした。
俺が礼を終えて顔を上げた、そのときだった。
ねっとりとした膜が体を包むような感覚がして、隣にいる先輩たちの姿が消えた。
「空くん!」
「ああ、
俺はとっさに、ポケットの中に入っているクリア定規を取り出した。眩い光とともに、人間態に変身したクリアが現れる。
春菜もリュックからテディベアを取り出し、構える。すると輝きを放ちつつ、ゴンタがその姿を現した。
どこから敵が襲ってくるか分からない緊張感に包まれながら、俺たちは境内の中央にある開けた場所へと移動する。
「いるんだろ! 出てこいよ!」
俺がそう叫ぶと、木陰から二人の人物が姿を現した。
一人は白いスマホを持ったショートボブの女性。もう一人は黒く長い襟髪をサイドテールにまとめた、
「アンタたちの
「行くぞ、クリア!」
「うん!」
クリアは腕を前に出して戦闘態勢を取る。ゴンタはそこから少し下がった位置で構えを取った。
一方、狐面の少年は四つん這いになってこちらを見上げる。そのポーズはまさに獰猛な獣を彷彿させた。
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