第21話 どんな顔すればいいんだ
「さぁ、戻らないとな」
この空き教室にずっといる訳にはいかない。
そろそろ戻るか。
とは言っても教室に戻ればもう葵は戻ってきるだろう。
どんな顔しろってんだよ。
「翔馬どうした?」
俺が動かないでいると恭弥は心配そうな顔をしたと思ったら急にニヤニヤし始めた。
絶対よからぬ事を考えている。
俺の勘がそう言っている。
「そうかそうか、寺島さんと見つけ合うのがそんなに恥ずかしいか〜」
煽り性能マックスだな。
「そんなことはないぞ」
「じゃあなんで動かなかったんだ?ん〜?」
「それはあれだよアレ」
恭弥の顔がどんどんウザくなっていく。
「ドラム頑張らないとと思ってたんだよ」
「そうかそうか。ドラム頑張って寺島さんに褒めて貰いたいと」
「そうは言ってないだろ」
「まぁ今回のところはそういうことにしといてやるか〜」
うぜ〜
「さ、本当に戻るか」
俺は恭弥から逃げるため速足で教室を目指した。
「翔馬〜。どこ行ってたの?」
「葵を探しに行ってたんだよ」
教室に着いたとたん葵は俺に話しかけてきた。
なるべく平然を装う。
「ね?私なんかした?」
「いや」
「じゃあなんでさっきから目逸らしてるの?」
やっぱり葵を正面から見るのは無理だったようだ。
完全に怪しまれている。
「そんなことはないぞ」
今度はしっかりと葵の目を見た。
「……。」
「……。」
無理。
「大丈夫?顔赤いし」
「大丈夫だから」
葵が心配して俺の顔を覗こうとした。
俺は両手をだして葵を近づけないようにしている。
「寺島さん大丈夫だよ。翔馬はただ、寺島さんが帰ってきてくれて嬉しいだけだから」
「恭弥お前マジで黙ってろ」
余計ややこしくなるだろが!
「そうか、翔馬は照れ屋さんだからね〜」
葵も調子に乗り出した。
俺のほっぺを指で突っついてくる。
くそ、恭弥の方を振り向いた隙に葵は俺の懐まで来ていた。
顔が熱い。
絶対真っ赤だ。
「翔馬、顔真っ赤だよ。リンゴみたい」
「うるせぇ〜。ほら、準備するぞ」
俺は何とか逃げることには成功した。
けど問題は何も解決されてはいない。
さっきまでは葵と普通に話せたのに好意を自覚した途端これかよ。
俺大丈夫か?
かといって何か案がある訳でもない。
とりあえずは慣れるしかないか。
慣れるとは限らないけど....。
「さぁ、翔馬帰ろ」
今日の準備と練習も終わり帰宅となった訳だが。
そりゃ毎日一緒に帰ってるんだ。
今日もこうなるよなぁ〜。
「お、おう」
その時肩を叩かれた。
「頑張れよ」
振り返ると恭弥がウインクをキメながら小声で言ってきた。
素直にウインクは気持ち悪い。
「準備順調だね〜」
「そうだな」
葵と2人で下校。
思ったより大丈夫だった。
横に並んでいる為葵の顔を見ていないからだろう。
普通に会話出来ている。
「ねぇ、ほんとに大丈夫?元気ないけど」
ということは顔を正面から見るとダメだということだ。
「ホ、ホントニダイジョブ」
「なんでカタコト?」
今俺は葵に顔を覗き込まれていた。
あまり顔を近づけないで。
また顔が熱くなるから。
「無理はしないでね?私も心配なんだから」
「はい」
「それじゃあまた明日」
「お、おう」
別れ際に満面の笑みを見せるのはやめて欲しい。
心臓に悪い。
正しい幼なじみの付き合いかた 九十九語 @nanahi
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