第20話 モヤモヤ
「寺島さん。1年生の頃からずっと好きでした」
生徒会室へ続く渡り廊下。
そこを歩いているとそんな声が聞こえてきた。
俺はとっさに物陰に隠れた。
て、何盗み聞きしてるんだ。
けど許して欲しい。
だってその声ここ最近よく聞いていた声だったのだから。
「何となく吉川君私の事好きなのかなとは思ってたよ」
その声は吉川だった。
「やっぱり気づいたか。ま、そりゃそうだ」
「改めて、寺島さん。あなたが好きです。僕と付き合ってください」
俺はいたたまれなくなってその場を離れた。
このまま教室に帰っても葵は見つかったけどどう説明すればいいか分からない。
とりあえずどっかで時間潰すか。
そう思って誰もいない空き教室に入った。
葵返事どうしたんだろう。
OKしたのかな。
って俺は何を考えている。
別に俺は葵と付き合ってるわけじゃない。
なら、葵が誰と付き合おうと俺には関係の無い話だろ。
けど、もし葵が吉川と付き合えば俺たちは今までのようにはいかないだろう。
葵が朝起こしに来ることも無くなれば一緒に登校することも無くなるだろうし、休日は吉川とデートでもするだろう。
そうなると寂しいな。
はぁ、葵取られなくないなぁ〜。
この感情は俺の素直な気持ちだった。
そうか、最近のモヤモヤは葵を取られたくないという気持ちだったんだな。
いわゆる独占欲ってやつだ。
情けねぇ〜。
こんな惨めなやつがあるかよ。
葵を取られそうになってようやく気づくのかよ。
そうか、俺は
葵が好きなんだ
あいつと、葵といれる時間が何よりも大切なんだ。
それを失いたくない。
あの笑顔を失いたくない。
何年も幼なじみとして見てきた笑顔。
それだけじゃない。
部屋で真剣に勉強してる時の顔も、楽しそうに料理してる顔も、俺に怒ってる時の顔も。
色んな葵の表情が目に浮かぶ。
それほどに俺は気づかないうちに葵を目で追っていたのだろう。
そう自覚するとなんだか恥ずかしくなってきた。
もうどうしろってんだよ。
その時この空き教室の扉が開いた。
「よ、翔馬」
「きょ、恭弥!」
「帰ってくるのがおせーからどうしたのかと思って探してたらまさかこんなところでサボってたとは」
「サボってねーよ」
「じゃあ何してたんだよ」
「何って、考え事だよ考え事」
「は、はぁ〜それは寺島さんのことについてだなぁ〜。最近吉川とかいう悪い虫が着いて心配なんだろ〜」
「ッ!」
「え、図星なの?」
聞いた本人が驚くなよ。
「え、何があったんだ」
俺は恭弥にさっき起こった事を洗いざらい話した。
もちろん好意を覚えたことについても。
「なんかようやくって感じだな」
「何がようやくだよ」
「いや、お前自覚ないだろうけど周りからみたら好きなの分かるぞ」
え、嘘だろ。
なんなのその事実。
めっちゃ恥ずかしんだけど。
「翔馬に1ついいことを教えてやろー」
本当にいいことなのか?
「恋ってのは堕ちたくて堕ちるもんじゃ〜ない。堕とされるんだ」
何こいつ?
気持ちわる
「なんだよその目は。せっかく人がいいこと言ってやったのによ」
「いやー、実にどうでも良かったので」
「なんだと〜」
恭弥のお陰でちょっとは落ち着けた。
ありがとよ
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