報道3  興味なんて、ありませんでした。

◇◇◇






「――本日オープニングを飾ってくださるのは、待望のデビューとなる注目のアイドルグループ、Whale taiLの皆さんです。グループ結成当初からImstagramでメンバーを順番に公開し、そのビジュアルからすでに沢山のファンがいらっしゃるそうですが、メインボーカルとなる最後のメンバーがまだ公開されていないことでも話題となっています。まさにいま、あちらのステージで準備をしてくださっていますが、実はsleeKのお2人と同級生のメンバーがいらっしゃるんですよね」


司会の女性アナウンサーが、隣に立つsleeKのリーダー、ノゾムさんへにこやかに問いかける。


「そうなんですよ。僕はユウと、ジウはテルと、それぞれ中学の同級生なんです。プライベートでもよく遊んだりしてますよ~」


「そちらのお話もぜひ、のちほどゆっくりとお聞かせいただきたいですね」


同意を求める彼女に、もう1人の男性司会者が冗談交じりに笑った。


「じゃあ最後のメンバーが誰だかも知ってたりするんじゃないの?」


大袈裟に眉尻を下げたノゾムさんが、明るい口調で答える。


「残念ながら僕たちも知らないんですよ~。だからファンの皆さんと同じように、このあとのステージがすごく楽しみなんです」


ノゾムさんの完璧な結びで、女性アナウンサーが流れるように曲紹介へと戻る。


「このあと披露してくださるデビュー曲は鯨をイメージした幻想的な歌声と、しなやかなダンスが特徴とのことです。また、最後のメンバーがサビでローブを脱ぎ去るという特別演出はデビューステージとなる今回限りとのことですので、sleeKの皆さんもぜひお見逃しのないようご注目ください」


「いや~、引っ張りますね~」


大袈裟なノゾムさんのリアクションに共演者たちが一様に笑い終わったところで、見計らったように女性アナウンサーが告げた。


「――それではお聴きください。Whale taiLの皆さんで《Whale 52Hz》」




曲紹介が終わるのと同時に僕たちのいるステージが暗転し、暗闇に沈んでいた向かいのステージが深い藍に飲み込まれていく。


海の底に沈んでいるかのようなくぐもった水音と、哀しげな鯨の声が響くのをどこか遠くに聞きながら、用意された席へと歩き出した。



さして興味もなく、横目でチラリとステージを見る。


足元まで覆われたローブに、鼻先まであるフードで顔を深く隠したメンバーが中央に立っていた。


彼がいま話題になっている、最後のメンバーなんだろう。


興味を惹かれることもなく視線を足元に戻したが、まるで水中に優しく広がるような歌声に、思わず足が止まり振り返った。



「~♪ whale 52hertz それが僕の名前 世界で最も孤独な鯨だなんて 幻だなんて言われて 僕は確かにここにいるのに」



ローブの人物から発せられる透き通った高音は身震いするほど幻想的なのに、孤独と哀しみが痛いほど伝わってきて、思わず涙が溢れそうになる。


どうしたらこんな歌い方ができるのかと疑問に思う暇もないほど、どうしようもなくその歌声に引き込まれてしまった。

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