報道2 心配の仕方も、人それぞれです。

「亜未、大丈夫か?」


控えめなノックのあとに聞こえてきた落ち着きのある低い声に、ゆっくりとベッドから起き上がる。


「開けるぞ…?」


様子を窺うように静かに開いていくドアから、少し長めの金髪と切れ長な瞳が覗いた。


「起きてますよ。大丈夫です」


少し笑いを含んだ私の声に、叶武かなむさんが安堵したように目を細める。


「よかった。――顔色も良くなったな。眩暈はないか?」


観察するように忙しく動く瞳に捉えられながら、私はベッドから降りて上着を羽織った。


「はい、もう大丈夫です。……心配をかけてしまって、すみませんでした。みんなにも謝らないと…」


叶武さんの前で落ち込む私の頭に、温かい手が優しく触れる。


「気にしなくてい――」


「亜未!!心配したんだぞ!そんなにつらいなら次からはフード被ったままのほうがいいんじゃ――」


「亜未~!もう良くなった?でも心配だから今日は一緒に寝ような!」


私たちの会話を聞いていたのか聞こえたのか、隣の部屋からじんさんと耀てるがすごい勢いで走ってきて、叶武さんの声を遮った。


「…2人とも、もう少し静かに――」


「お前っ!俺の可愛い亜未と一緒に寝るだと!?そんなことこの俺が許すと思ってるのか!!」


たしなめようとする叶武さんを再び遮った仁さんが、耀の胸ぐらを掴む。


「え、仁さんの許可が必要なんですか?でも小さい頃はよく一緒に寝てましたよ。お風呂も一緒に入ってましたし」


胸ぐらを掴まれていることなどまったく意に介さない様子で、耀は不思議そうに尋ねた。


「そんっ…そんなの小学生のときの話だろうが!」


「??小学生のときはよくていまはダメなんですか?」


「ダメに決まって――」


「うるさい」


2人の言い争いに口を挟めず困惑している私と叶武さんの代わりに、氷のように冷たい悠羽ゆうさんの声が静かに響く。


「…亜未が起きたら今日の生放送の録画を観るって言ってただろ。準備してあるからさっさと来い」


有無を言わせない悠羽さんの不機嫌オーラに、全員が大人しく踵を返しテレビの前に向かった。



「……亜未」


悠羽さんの心地良い中低音に呼び止められ、振り向く。


「あ、悠羽さん。あの…今日は本当にすみませんでし――」


「これやる」


ぶっきらぼうに差し出された手から私の手へ、丸くてカラフルな物体が落とされた。


「これ……バスボム…ですか?」


なぜ渡されたのか理解が追い付かず首を傾げる私に、視線を逸らした悠羽さんがぼそりと告げる。


「今日は色々あって疲れただろ。それは血行促進と疲労回復と…香りはリラックス効果があるから」


みなまでは言わないが察しろとでもいうように、照れくさそうに頭を掻く悠羽さんに驚きが隠せず、思わず見つめた。


「あの、ありがとうございます。大切に――」


「しなくていいから。今日使え」


悠羽さんはそれだけきっぱりと言い切ると、これ以上は耐えられないという雰囲気で背中を向ける。


足早にみんなのもとに向かう背中をぽかんと眺めながら、徐々に自分の口元が緩んでいくのが分かった。




――今日は、ゆっくりお風呂に浸かろう。




みんなに見つからないよう自室の机の引き出しにこっそりとしまってから、軽い足取りでリビングの席に着いた。

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