◆第1章、すれ違う再会。
報道1 気が付いたら、走っていました。
「――
息を切らしながら二の腕を掴み振り向かせた彼女は、心底驚いた表情で僕を見た。
自分とは違うその腕の細さと柔らかさに、数年前はまだ感じることのなかった強烈な庇護欲が掻き立てられる。
「――ジュン!?な、なにしてるの!」
同じく息を切らしながら追いかけてきたノゾムさんが、慌てて僕の腕を掴む。
「アミちゃんごめんね!大丈夫?」
「あ……はい…」
彼女はまだ掴まれたままの自分の腕を一瞥してから、戸惑いがちにノゾムさんへと視線を移した。
「…あれ?アミちゃん、なんか顔色悪くない?」
ノゾムさんの言葉に、初めて彼女の顔が青白いことに気付く。
なにか言葉を掛けようと口を開きかけたとき、彼女の隣にいた銀髪の男性が眉をしかめ冷たく言い放った。
「分かってんなら放せよ」
ノゾムさんを見ていた彼が僕へと視線を移し、彼女の肩を少し強く抱き寄せる。
反射的に手を放すと、彼女は少しふらつきながら彼の腕へと収まった。
「あの、具合が悪いなら楽屋まで僕が抱いて――」
「ふざけんな」
銀髪の男性を含めた3人の男性の低い声が重なり、伸ばした僕の手を遮るように彼女とのあいだに茶髪の2人が立ちはだかる。
「いくら共演者とはいえ、いきなり腕を掴むなんて非常識じゃないか?」
暗めの茶髪の男性が、敵意をあらわに詰め寄ってくる。
「すみません、つい…。でもあの僕、亜未さんの――」
「あっ!!ユウ、なに勝手に連れて行こうとしてるんだよ!」
「…は?なにが」
僕に詰め寄っていた男性が、銀髪の男性へと声を張り上げた。
「アミは俺が連れて行くって言ってるだろ!放せ!」
ユウと呼ばれた男性の腕から、強引に彼女が引き離される。
「いや、そんなことどうでもいいから早く――」
「ジンさんずるい!僕が抱っこするって言ってるのに!」
明るめの茶髪の男性が、子供のように頬を膨らませ抗議する。
「テルに抱き上げられるわけないだろ…。そもそもアミに触るな」
周りから隠すようにさらに抱き寄せられた彼女は、青白い顔のままどこか諦めたような遠い目をしていた。
「最近鍛えてるんです!だから抱っこできます!」
「――ストップ。アミは自分で歩けるって言ってるんだから、誰かが支えてやればいいだけだろ。もうジンでもいいから早く連れて行ってやれ」
終わらなそうな言い争いに、それまで静観していた金髪の男性がため息まじりに止めに入る。
むくれて唇を突き出すテルと呼ばれていた男性と、勝ち誇った顔で見下ろすジンと思われる男性を一瞥し再び小さくため息を吐くと、僕に向き直った。
「申し訳ないんですが、緊急でなければ改めて頂けませんか。アミはいま体調が優れないので、早く休ませてあげたいんです」
「あ…」
なんと返したらいいのか分からず声を漏らしただけの僕に金髪の彼は小さく頭を下げ、すでに踵を返していたメンバーたちと共に立ち去ろうとする。
「あ、あの!待って亜未、連絡先――」
「わああああ!!ジュン、なに言ってるの!」
僕の声に亜未を含めた何人かが振り向いたが、ノゾムさんの声で掻き消されたこともあり、周りに促された彼女は楽屋へと戻って行ってしまった。
申し訳なさそうにもう1度振り返ってくれた彼女の優しさに、心の奥底に沈めていた気持ちが急速に浮き上がってくるのが分かる。
「っ、ノゾムさん!さっきの銀髪の…ユウさんと友達なんですよね!?」
「えっ?う、うん。そうだけど…」
僕に勢いよく肩を掴まれ、分かりやすく戸惑うノゾムさんに構わず捲し立てる。
「亜未の連絡先を教えてもらえるように頼んでもらえませんか!?お願いします!」
「いや、頼むのはいいけど……。ちょっとその話は1回楽屋に戻ってからにしようか…?」
冷や汗をかくノゾムさんの視線を辿り振り向くと、そこには静かに怒りを滲ませるマネージャーの
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