第31話 妹の誕生日②
「ありがとな、想夜歌の誕生日会に来るって言ってくれて」
「テストも終わったことだし、問題ないわ。それに、想夜歌ちゃんは私に取っても可愛い妹みたいなものだし」
水たまりを避けながら、雨上がりの道を二人で歩く。ジメジメとした空気と太陽光のせいで、汗が止まらない。
暁山は、もう夏だというのに涼しい顔をしている。クールぶるあまり汗腺までコントロールできるようになったのだろうか。恐ろしい。
「もちろん、朔ほどではないけれど」
「は? 想夜歌の方が可愛いに決まってるだろ。朔なんて優しくて男らしくて将来イケメンになりそうなだけじゃねぇか」
「よく分かってるわね」
うんうん、と満足気に頷く暁山。
まあ正直、俺も朔を憎からず思っていることは間違いない。あいつの誕生日も盛大に祝ってやろう。
「誕生日会をやるなら、プレゼントを用意した方がいいわよね」
「ああ。つっても、安いやつで大丈夫だぞ? なんか女の子らしい可愛いもので頼む」
「任せてちょうだい」
自信ありげな暁山だが、彼女が可愛いものを所持しているところを見たことがない。ちゃんと選べるのか心配だ……。想夜歌なら何貰っても喜ぶと思うけど。
「料理は俺がやるから。ケーキは柊がヤル気出していたな」
「……ええ、もちろん異論はないのだけれど、わざわざ釘を刺すように言われるのは釈然としないわね」
「むしろ担当できると思ったのか?」
軽口で応じると、殺気を籠めた目で睨まれた。しかし、自覚があるのかいつものキレはない。
誕生日会、楽しみになってきたな。みんなが集まってくれるなら、きっと今までで一番楽しい誕生日になる。
母さんが来られなくても、満足して貰えるはずだ。
「響汰には色々とお世話になったもの。できることはするわ。だって私たち、ママ友でしょう?」
四月の入園式で暁山姉弟と遭遇してから二ヶ月が経過したが、その間かなりの時間を一緒に過ごしたと思う。想夜歌と朔はすっかり仲がいいし、俺たちとの関係も良好だ。なにより、去年までの俺なら想像もできないくらい、暁山と親密になっている。
もちろん、それは普通の友人関係とは違うものだし、恋愛などでもない。
ママ友、という表現が一番しっくりくる。想夜歌と朔を通じて、彼らのために関わっているのだ。
学年で一番可愛いと言われている暁山とこうやって毎日一緒に帰っているのも、たまたま行き先が同じだからに過ぎない。
それでも。
今の関係は、案外悪くないんじゃないかと思う。ちょうどいい距離間で、心地良い。
「ちょっと、幼稚園の前でにやけないで。通報される……いえ、するわ」
「あれ? 信用ゼロ!?」
二ヶ月間で築いた信頼はどこへ?
暁山がふふっ、と軽快に笑う。
教室では決して見せない楽し気な表情に、ちょっとした優越感を覚える。
「って、なんで俺が暁山なんか意識してるんだ」
小さく呟いて、かぶりを振った。
俺は想夜歌一筋である。
「お兄ちゃーん!」
「想夜歌! お待たせ!」
想夜歌の笑顔は世界一だな!
「そうだ想夜歌、誕生日だけどな」
さっそく誕生日会のことを伝えてやろう。
そう思って口を開いたのだが、暁山につんつん、と肩を突かれた。
「誕生日会のことはサプライズにしましょう」
いたずらっぽい笑みと共に、そう囁かれた。
俺と暁山のやり取りを、きょとんとした顔で想夜歌が見上げる。
「なになに?」
「え、えっとな……」
サプライズっ、なんと魅力的な単語だろうか。今伝えて毎日そわそわする想夜歌を見るのもいいが、誕生日会は初めての試みだ。当日突然知る方が、より喜んでくれるんじゃないか?
俺は当日まで隠し通すことに決め、口を噤んだ。認めよう暁山、お前の案は素晴らしい。
親指を立てて暁山に向けると、暁山はこくりと頷いた。意識を共有した瞬間である。
想夜歌は俺と暁山を交互に見て、得心がいった、という風に手を叩いた。
「お兄ちゃんとすみちゃん、らぶらぶしてる!」
「してない!!」
恋愛に興味を持ち始める年頃かな。
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