第13話 妹のカラオケが可愛すぎる

 学年一の美少女と一緒にカレーを作って食べるなんていう、心躍るイベントがあったとは思えないほど、静かに数日が過ぎた。いや、朔のために招待しただけだから、何も期待していないけどね?

 片付けを終えると、暁山は朔を連れてすぐに帰った。送っていこうとしたが、想夜歌を放っておくのも悪いし家も近いということで断られた。二人の家は幼稚園を挟んで反対側にある。自転車なら二十分も掛からない。


 学校での態度も特に変わりはなく、一方的にそわそわしているようでムカつく。


 だって、仕方ないだろう。家に女の子が来るなんて初めてだったのだ。それが、あの口を開けば毒を吐いてくるような相手であっても、多少意識してしまう。俺は純粋な少年なのだ。


「あっ、響汰! こっちこっち!」


 駅前で集まる制服の集団の中心で、瑞貴が大きく手を振った。他の生徒たちも、まばらに反応を示す。


 今日は以前瑞貴が話していた、クラスの親睦会らしい。参加は自由なので、人数は十数人に収まっている。部活がある奴も多いし、こういった会が苦手な者もいるだろう。

 やはりというべきか、瑞貴の周りは女子生徒ががっちりと固めていた。学外ということでメイクもしていて、気合の入りようが怖い。瑞貴は苦笑いだ。男たちは、これを機に女子と仲良くなろうって腹かな。まあ瑞貴の人気は一種のアイドルのようなものなので、チャンスはあると思う。


「悪いみんな、待たせた」

「いや、ちょうど話がひと段落したところだったんだ。想夜歌ちゃん、こんにちは。はいこれ、プレゼント」

「みじゅき! あいとー!」


 こ、こいつ……なんてスマートなんだ。

 想夜歌と瑞貴は何度か面識がある。毎度ちょっとお高めで見た目も可愛いお菓子を貰えるので、すっかり懐いてしまった。想夜歌、悪い男には気を付けるんだぞ。

 瑞貴が頭を撫でようとしたので叩き落とした。油断も隙もない。


「かわい~!」

「あいとーだって! ありがとうって言ってるのかな?」

「昏本君の妹? かわいすぎ!」


 うんうん、そうだろうそうだろう。

 想夜歌は世界一可愛いからな。可愛いもの好きの女子高生からの評価が高いのは当然だ。写真だけじゃ伝わらない。やはり直接会うのが一番だ。

 突然詰め寄ってきた年上のお姉さんたちに、想夜歌はたじろぐ。最近は幼稚園の先生や暁山のおかげで慣れてきたが、年上の女性というのはどうも怖く見えるらしい。特にこうして、もみくちゃにしてくる相手は。


「みんな、想夜歌ちゃんびっくりしてるからその辺で」

「あっ、そうだよね……ごめんね」


 想夜歌は救出してくれた瑞貴の横に行き、袖をちょこんとつまんだ。幼くてもイケメンは好きということか!


「じゃあそろそろカラオケに入ろうか」


 ポイント稼ぎのタイミングを逃した俺は、すごすごとついていくしかなかった。


 カラオケ店は既に予約済みで、パーティ用の大部屋に通された。これだけ人数がいると一周するのに相当な時間が掛かるが、目的は歌うことじゃない。ドリンクバーと持ち込んだお菓子で談笑しながら、たまに歌うくらいだ。俺は歌わなくていいかな。


 お兄ちゃん離れが早すぎる妹を泣く泣く送り出して、ドリンクを取りに行く。悔しいが、瑞貴の側にいれば悪いようにはならないだろう。誠に遺憾ながら。


 無難にウーロン茶を注いでいると、隣に女子生徒が並んだ。


「やっほー。くれもっちゃんの妹、マジで可愛いじゃん!」

「だろ? てかなんだよその呼び方……ひいらぎ

「いいじゃん、親しみを込めて? みたいな」


 下の名前は麻帆まほだったか。今年からクラスメイトになった子で、派手なグループに属するギャルだ。正直、あまり得意なタイプではない。


「いいのか? 席の奪い合いに参加しなくて」

「んー、だって瑞貴ってそういうの好きじゃないでしょ?」

「よくお分かりで」


 ちなみに、瑞貴の隣は想夜歌がばっちりキープしている。女子除けに利用されたと言い換えてもいい。

 イケメンからのお姫様扱いに、想夜歌もウキウキだ。


「それより、くれもっちゃんと仲良くなりたいなー」

「お前、まさか想夜歌狙いか!?」

「いや、フツーに瑞貴狙いだけど」

「え、フツーに傷つくんですけど」


 女子生徒たちはいくつかのグループに分かれていて、一番派手なのは柊たちだ。瑞貴の周りで騒いでいるのは、少し普通寄りの子たちだな。どちらが上とかは知らないけど。

 その中でも柊は気が強く、プライドが高そうだ。あと、かなり可愛い。暁山が女優タイプだとしたら、柊はモデルだ。オシャレにも気を遣い、流行にも敏感だ。


「ふふふっ。あ、そういえばあの子来なかったね」

「あの子?」

「暁山さん」

「あー」


 送り迎えの際に改めて、朔と一緒に来ないかと誘ったが、返事は芳しくなかった。


「まああいつも忙しいんだろ」

「ふーん。ま、別にいいケド。せっかく瑞貴が誘ったのに」

「お前としては来ない方が良かったんじゃないのか?」

「なにさ、あたしが暁山さんのこと嫌いだって思ってるの? あの子たちじゃないんだから、そんな陰湿なことしないって。それに、あたしは誰にも負ける気ないから」

「悪い。そんなつもりじゃなかった。ただ、俺に宣戦布告されても困るな」


 暁山は一部から疎まれているものの、イジメを受けているわけではない。それに、柊が悪口を言っているのは聞いたことがない。俺の発言んは軽率だったな。

 部屋に戻ると、想夜歌がマイクを握りしめて歌っていた。中心に置かれた椅子に立って、周りをみんなが囲っている。まるでステージだ。曲は、想夜歌がはまっているアニメのオープニング。


 うろ覚えかつAメロしか知らないからめちゃくちゃだけど、本人も周りも楽しそうだ。


 俺? もちろん全力で合いの手を入れた。

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