超能力少年の憂鬱

生まれつき超能力を持って生まれた工藤勇太くどうゆうた



 彼が所有する能力は主に3つ

 サイコキネシス

 テレポート

 テレパシーである



その力を生まれた時から己の手足のように当然に使っていた彼だが…

その力が元でその後、彼に不幸が齎す事となったのはまた別の機会に記す。



紆余曲折あって、高校生になった彼は現在一人でアパートに暮らし高校に通っている。

そんな彼がお小遣い稼ぎに足しげく通っている探偵事務所がある

ここの所長、笠間照彦かさまてるひこは訳あって勇太の超能力の事を知っている。

そんな彼だからこそ勇太も彼の前でなら隠す事もなく遠慮なく力を使えるし、

笠間も存分に勇太の力に頼って事件を解け…げふんげふん…

いや、ちゃんと笠間は自らの推理力で事件を解決してますとも。




これは、そんな二人のいつもの日常風景のお話







その時笠間は得体の知れない何かに追われていた。


「くそ!なんだってんだ!こんな話聞いてないぞ!」


夕暮れも押し迫るオレンジ色の空をバックに草間はソレから全力疾走で逃げる。

誰もいないスクラップ工場。

笠間の荒い息遣いと、それを掻き消すかのようにうなりをあげて狂った様に追いかけて何か。


「こ、ここは、あいつに頼むしか……っ」


笠間は逃げる合間にポケットからスマホを取り出し誰かへと電話かける。

しかしいつまでも経っても相手が出る様子はない。


「何してんだー!勇太ーーーー!!」

ついにはスマホを放り投げ叫ぶ。

その彼の叫び声がが夕焼け空に解けていった。








「ふ~。解けるね~」

時を同じくして都内の健康ランドの温泉で解けている少年が一人。


笠間がスマホで電話をかけた相手、工藤勇太だ。


「ん?」

頭にタオルを乗せのんびりお湯に浸かっていたが、

ふいに自分を呼ぶを声をキャッチする。思わず意識をそちらに向け集中する。


「笠間さん?」

声の主を探り当て思わず声に出すも、それ以降はその相手にテレパシーを送信で返す。


『勇太か!これ、テレパシーか!?スマホに電話したんだぞ!なんで出ないんだ!』


すぐさま相手の念をテレパシーで受信する。


『だって俺今健康ランドだもーん』


『何ィ!?健康ランドだと?!…若い癖に。い、いやいいやそれ所じゃない。すぐにこっちに来れないか!?』


『無理ッスね。俺今素っ裸だし』


そんなやり取りをテレパシーで行う。

傍目には勇太が一人静かにお湯に浸かっているようにしか見えない。



『学校の帰りに友達に誘われて健康ランドに来てんの。今学割で150円なんだー。

俺いつも家でシャワーばっかだからたまに温泉入るといいよね。で、何かあったんですか?』


なんとも呑気な状況の勇太とは裏腹に今まさに笠間は絶体絶命のピンチ。


『依頼に呼ばれてとあるスクラップ工場に来て見たんだがどうもハメられたらしい!

依頼の相手はいないわ、変なものに追いかけられるわ……!頼む!力貸してくれ!』


『俺に素っ裸で飛んでけって言うんですか?いくらなんでも俺そんな変態さんじゃないっスよ』

と言いかけ何やら勇太は考えこむ。


『……まぁ、そっちに『力』だけなら貸す事が出来るかもですが……』


『何!?なんだかよくわかんねぇがそれでいい!やってくれ!』


『でも最近あんまりやって事ないし、リスク高いかも……』


『わぁーったよ!お前がもういいって言うくらい健康ランドに通えるくらいの報酬だしてやるから!』


それを聞いてにやりと勇太。


『毎度』






サイコキネシス、テレポート、テレパシー。

超能力の種類はいくつかあるが複数所持の場合でも同時に複数の能力を使う事はあまり出来ないとされている。

精度が落ちたり失敗する確立が高いという理由に加え、施行者が肉体的精神的にリスクを伴うとされるからだ。




『今から笠間さんが見ているものを俺がテレパシーで見ます。遠視ではないのであくまで笠間さんが見ないと俺にも見えませんからね。

そしてサイコキネシスの力をその敵にテレポートで送ってぶつけます。いいですね?わかりましたか?』


『お、おう。了解だ』(つう事は3種一度に使うって事だな……)

笠間はふいに勇太にかかる負担への不安が頭を過ぎる。

しかし、

『大丈夫ですよ。伊達にガキん時に実験の数踏んでないッスから』


そんな思いまでテレパシーで読み取り、さらっと勇太は言う。

勇太の幼少期に起きた『不幸の事情』を知っている笠間は苦笑いをして返すしかなかった。



(俺以外とすごいんだから!)


心の中で自画自賛した勇太だったがテレパシー能力全開時なので笠間に駄々漏れになっていたのに本人は気がつかなかったらしい。

それに笠間は特に突っ込みは入れず少し口元を緩めただけだった。




……お前がすごいなんて重々承知の上だよ。




『じゃあ、行きます。笠間さんがその追ってきている何を直視してくださいね。

んー、何か合図が必要かな~。笠間ビームなんでどうです?そしたら力送りますんで』


『なんだよ、その笠間ビームって』


『いいから早く早く』


『わぁーったよっ!』


いいかげん追いかけっこを終わられたいのも本当の所。

やむなく笠間は承知した。

それから走ってた足をキュッ!と踏み止め踵を返すとソレを目の前に見据えた。



「笠間ビーーーム!!!」

合図と共に何か強力が圧力みたいな力がソレに向かって体当たりした。

グシャァ!!と、物凄い音がしてソレが粉々に飛び散った。


「くぅ!」


笠間は身を低くして衝撃に耐える。そして完全に動きを止めたソレを見た。


まさしくそれはスクラップの塊。

古びた車、バイク。

それらがぐちゃぐちゃに混ざり合ったモノが一つの塊となりまるで生き物のように笠間を追いかけていたのだ。


「……付喪神か……?」


粉砕されたソレは再び自力で動き出す力はもうなかったらしい。


「一体なんだってんだ……」


いくら怪奇な事件ばかり請け負っている探偵だと自覚せざるを得ない笠間であったが

流石に勘弁して欲しいと独り言ちる。

そして今回こんな所に呼び出して行方をくらました依頼人の事を苦々しく思い出していた。






「ふぅ。なんとか撃破できたかな」


事件解決を『見た』勇太はようやく声を出した。

そして立ち上がろうとして

「は、れ……?」


世界が回転する。勇太はそのまま盛大にお湯しぶきを上げて湯船に沈んだ。

どうやら湯あたりしたらしい。全裸で湯船に浮かんでいた所をを友人らが助け、

その有様を後々の語り草にされた本人がもう絶対お風呂ん中で3種いっぺんになんか使わねぇ!と後悔したのは言うまでも無い。







『勇太?勇太?』

あれから念を送っても何の反応も返って来なくなったものの


ま、ダチと来てるって言ってたしな。とりあえず危機も脱したし勇太とは後日会うとするか、と笠間は思うのだった。


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