第9話 優しい子

「そういえばさ、まだお礼言ってなかたなぁ」

「―え?」



「ほら、お前に助けて貰わなかったら俺刺されてたやろ?」

「―…………」



「勇太が自分の力どう思ってるかは知らへんが、俺は感謝するでぇ?

  お前のことや、今までもそうして来たんやろ? あの猫だけやない。その力でぎょうさん人救って来たんやろ?」

「…………」



「…もっとその感謝の言葉に耳を傾けなぁ。

…また人に見られるという危険を冒してまで俺を助けてくれたんやろ?……ホンマ、ありがとぅ、勇太。」

「…………っ」


ついに勇太が歩みを止め圭介と顔を合わせる。すぐに柄にもなく優しい顔付きの圭介がいた。

「…なっ、何言ってんだよ……っ」

すぐにまた視線を外し早足で歩き出す勇太。




そんな勇太を目で追いながら圭介が言う。

「どんなに強い力も使いようやろ?良い事に使ってるって分かってる人が一人でもおればいいんやないの?」

「そんな人ここには……!」


反論しようと勢いよく振り返った勇太の鼻先に圭介の瞳。真っ向に見据える力強い瞳に勇太はまた言葉を失う。

「……っ」

「俺がおるで」


「俺は知ってるで。勇太がそういう奴だって。お前は優しい子や」

「!」


 


  

   (お前は優しい子だ)





 あぁ、叔父さんに言われた言葉と同じだ…… 俺を絶望の淵から救ってくれたあの言葉と……。

 そうなのかな…… こいつになら……いいのかな……




心の中で何かが氷解していくのが分かる。

そして勇太は理解する。自分は今この目の前にいる会って数日しか経ってないクラスメイトに心を許そうとしている事を。

何とも言えぬこの久しぶりに味わうこの不思議でこそばゆい感じ。たまらず勇太はみたびそっぽを向く。

「か・・、勝手にすれば? もう俺は知らないっ!」



その言葉を了承と受け取りこの日最高の笑みを浮かべる圭介。

「それじゃ、勝手にさせてもらうなぁ♪」

さっそく小走りで勇太と肩を並べる圭介。

「んじゃさ、とりあえず、俺ら服濡れてるやろ?これ、勇太ん家でなんとかさせてくれへん?」

「はぁ!?何言ってんだお前自分ん家帰れよ!」

「いいや~ん。せっかく友達になったんやしー」

「まだなるとは言ってない!」

「このままでは俺風邪引いてまうかも~~~」

「それは俺も同じだし!」

「それじゃなおさらやろ~。こっからだと勇太ん家の方が断然近いんやしー」

「あぁ、もう!くっつくな!肩に肘乗せんな!」



二人の少年のじゃれ合うような声がどこまでも続く。

それはほどなくオレンジ色に染まったマンションの一室に消えていくのであった。

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