第8話 頑丈な扉



なんだかんだと工藤教官の甥っ子が一緒なら大丈夫だろうと、圭介もほどなく解放された。

すっかり夕暮れに染まった街を二人で歩いて帰る。

「なんや~。俺と勇太の家系は真逆なんやな~。なんやドラマを感じるわ~」

器用にブロック塀を歩きながら圭介が言う。

「真逆って……やっぱり…泥棒…なのか?」

勇太が遠慮しがちに聞く。

「ま、泥棒は泥棒でも『義賊』って呼んでな?」

ニヤっと笑って圭介が塀から飛び降りた。

「『義賊』?」

「そや。義賊や。俺の親父、八幡喜一郎は大泥棒や。ただし正義のな?」

「正義の……泥棒……」

「そ。違法な商談や取引の全貌を世に暴くためにデータや物的証拠盗んだり、…つまり悪い奴らから困っている人を助ける為の泥棒や」

圭介の目がいつになく輝いて見える。だがその瞳がふっと曇る。

「…でもな、やっぱりあかんのや。相手がどんなに悪者でも盗むという行為は世間様では許されへん」

「…………」

「親父の技術なら脱走くらい訳ないのにここはきちんとお勤めを果たすって…今、絶賛服役中や。俺も親父譲りで手癖が早いからなぁ。

ついいろんなもん盗ってしまうんや。喧嘩も早いしな。院には2回入った。どこ行ってもおまわりにぎょうさん世話になってなぁ。

そんで親戚中たらいまわしや。そのたんび学校も転々として…。友達作ろ思ってもどこからともなく噂は流れて来よってなぁ。

親が刑務所にいて俺も院経験者いうのバレると皆自然と離れて行くんや。まぁ、当たり前かもしれへんけどなぁ。

だからなるべくおかしないようにクラスに溶け込むだけ。余計なことせえへん。そうすれば関係は薄いが長持ちはするってな。

…そんなだから最初に勇太を見た時になんとなくわかったんや。こいつは俺と同じだって。こいつとだったら友達になれるって。」

「…………」

「まぁ、泥棒に同じなんて言われて良い気はしないんやろうけどなぁ。でもやっぱ俺の目に狂いはなかった」

満面の笑みで笑いかける圭介。そして何かふと思い出すように、

「それにしても俺と同じ何かは隠してると思たけど、まさか猫が飛んで来よるとは俺も最初は驚いたでぇ。」



「…………」

何を言っても終始無言の勇太に些か圭介も不安に思ったのか、うつむく勇太の顔を覗き込む。

「なんや?やっぱ迷惑やったか? ・・せやろな、やっぱ泥棒に好かれたくは・・」

「そうじゃないよ」

圭介の言葉を勇太の言葉が遮った。

「…そうじゃないよ…。圭介の事はよくわかったよ。根は悪い奴じゃないって思う。

気に入ったって言われて悪い気はしない。…でも…やっぱり俺に関わらない方がいいよ…これ以上……」




うつむいたままの勇太の表情は頑なに見える。

「…だから昨日も言ったやん。どんな秘密ががあっても俺は……」

「知ったらきっと!」

また勇太が圭介の言葉を遮る。そしてゆっくりと顔を上げ圭介を見る。その瞳はとても不安定に見えた。


「…きっと、俺の本当の力を知ったらお前だって離れて行くさ……」


そしてまた俯くと圭介に背を向け歩き出す。その背中は頑丈な錠前で閉ざされた扉のようだった。

「まったく頑丈な扉やな。」

ふぅ、と小さなため息を吐く圭介。「ま、泥棒の腕が鳴るってもんや」

不適に笑うと圭介は勇太を追うように歩き出す。

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