第2話 屋上にて

「ほらよ」

勇太の手には焼きそばパンが握られていた。

強引なクラスメイトに頼まれてパンを買いに行き、授業開始ギリギリに戻って来た。


「おお~!おおきに!いくらやった?」

「120円。まぁどうせ俺もパン買うつもりだったし」

「勇太も昼パンなのか?」


 焼きそばパンを受け取った友人は財布から120円を取り出し勇太に渡す。

「ん……まぁな」

そういうと教室に先生が入って来て、席を立っていた生徒達が一斉に自分の場所へと戻る。

勇太も席に着き自然と会話は途切れそれぞれ授業の準備に取り掛かる。




 それから午前の授業が終わりお昼の時間となった。

勇太はいつもの場所へ向かっていた。屋上の一角。いつもここで一人で昼食を取る。

が、今日はいつもと違い先客が居た。


(……あ)



「よー、勇太ぁ!」

あのクラスメイトが屋上のフェンスに背中をもたれ勇太に手を振っている。


「何やってんの?」

「何って、ここでお昼しようかと思ってな。って、勇太もか?」

「…………。」


 勇太は無言で彼の横に行くと同じようにフェンスに背中をもたれかけた。

「俺、いつもここで飯食ってんだよ」

「そうなのかぁ?教室で皆と食べへんのか?」

「……まぁ、いいじゃん。一人の方が気軽で」


 そういうと勇太はその場に座り込み持ってきたパンの包みを開け食べ始めた。

クラスメイトも同じように座り込み焼きそばパンを齧る。


 しばらく二人がパンを齧る音だけが響く。時折スズメが上空を軽やかに飛んでいく。



 クラスメイトがふと横の勇太を見るとパンがあまり進んでいない。

「ところでさ……なんのパン食べてん?」

「……梅干チーズパン」

「げ……なんやそれ。うまいの?」

「ずーっと購買のパンばっかりだとたまに冒険したくなるんだよ!」

「で、どうやった?」

「……冒険失敗でした……」

「……せやろな……」




「ところでさ……」

今度は勇太が聞き返す。

「ん?なんや?」


「……名前、なんだっけ? もう一回教えて?」

「あんなぁ……」

今朝、工藤の「工」の文字でひと悶着あったせいもあり、勇太はバツが悪そうに苦笑してみせる。


「俺は、真田圭介さなだけいすけ。そう難しいもんやないからもう忘れんといてくれな?」

篤史は今朝の仕返しとばかりにけしかける。

「ぅー……」

勇太は何も言い返せず小さく唸る。



「ところでそれ、食べへんのやったら俺が貰うで?」

「え、これ?まずいぜ?」

「食べ物はなんでも粗末にしてはあきまへん」


そういうとひょいっと勇太の手から梅干チーズパンを奪うと一口で頬張った。

「ん~~~~っすっぱ、まっずぅ~~~っ でも頂きましたっ」

もぐもぐごくんと飲み込むと篤史は合掌し誰にでもなくお辞儀をした。



(……やっぱ変な奴……。)




(明日も……ここにいるのかな?)



 勇太は明日の事を思うと少しそわそわするのであった。

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