第114話 元おじさん・・・商業ギルド・3



 此方の贈り物を大変喜んで受けっとてくれたロザリア婆さんは如何にか正気に戻った様で(詰め合わせの箱は自身の小脇に大事そうに置いている)、此方のお願いの内容について尋ねて来た。


「先程は少々取り乱してしまって済まなかったねぇ。

 でだ、クロウ殿のお願いとはどのような事かな? これ程の品を頂いている以上、わしに出来る事であれば最大限の協力は約束しよう。」


 ふむ、予想以上に良い条件を引き出せたようだったので、当初の予定通り此方の要件を伝える。


 1、ダンジョンで入手した余剰分の素材やアイテムの買い取り、及び買い取り切れなかった分の代理販売委託(素材、アイテムは専用に製作したマジックバッグに収納して在る)。


 2、ダンジョンで得た情報、マップ、モンスター・アイテム分布の資料をクロウの情報を隠匿した状態で冒険者ギルドへ渡して欲しい。


 3、周辺諸国の情報の提供などその他。


「・・・クロウ殿、この条件は良くない、つり合いが取れていない!」


 あれ? 欲張り過ぎたか?


「わしの方が貰い過ぎだ! 他にもっと要求は無いのかね?」


 おう、足りないという事か。


「ロザリアさん、現状ではこの位ですので残りは貸しにしておいて下さい。

 自分としてはまずは目の前の問題を整理したいので、専門職の方の御力を借りたいのです。」


「うむ、言いたい事は分かるが・・・まずは買い取りについてから話すかね、他の問題についてはその都度解決して行こうかね、素材とアイテムを記載した物はあるかい?」


 「はい、此方に用意して在ります、更にこのマジックバッグに全て収納してあります。」


 記載した用紙とマジックバッグをカバンから取り出してテーブルに置く、その様子を何とも言えない表情でロザリア婆さんが眺めている。

 まぁ、言いたい事は分かるがこれから直面する非常識に慣れてもらいたいのであえてこのスタイルで押し通すつもりだ。


 まず記載した用紙を手に取り確認をしていくロザリア婆さん、次第に用紙を持つ手がプルプルと震えだし読み終えた時には眉間を押さえて長考し始めた。


 疲れていそうだったのでカバンからティーセットを取り出して紅茶を淹れてイチゴショートと一緒に出した。


 考える事に集中していた為か気付かずに紅茶とイチゴショートを口にしたロザリア婆さんは更に固まってしまった。


「・・・・・・クロウ殿?」


「はい? 何でしょう。」


「此方の御茶と茶菓子について後程お話を聞かせて欲しいのだが宜しいかな?」


「試作段階ですがレシピは用意して在ります。」


「成程、想定済みという事かね・・・まずは此方のリストからだね、正直全て買い取りたいが資金が足りない! 委託販売の提案は此方としても助かる提案なのだが。」


 少し渋い表情のロザリア婆さん。


「何か問題が?」と問い掛けると。


「・・・クロウ殿は心配にはならないのかい? これ程の財を他者に預けて、マジックバッグに至っては国宝級だ! 持ち逃げされるとは思わないのかい?」

 

 最もな意見であり正常な人間の感想だ、しかしおじさんは少々拗れた元大人だ! 通常であれば若返った肉体に精神が引っ張られるのだろうが40超えたおっさん魂はそう易々と屈したりはしないので以前言ってみたかった某マンガのセリフを引用して答えた。


「疑って安全を保つより、信じて裏切られた方が良いからです。」


 笑みを浮かべながら答えると、ロザリア婆さんから呆れた様な顔をされ。


「クロウ殿、その答えは一部の男共には共感は得られるが、女性には大して共感されんよ。」


 あれ? 駄目だったかな?


「忠告いたします、マスター女性からすると騙されやすい男性よりも安全な生活を保てる男性の方が信用出来るからです。

 マスターも父親に同じ事言われたらキレるでしょう?」


 ・・・御免想像したら殴りたくなった。

 あっれぇ? 人物が違うと、とんでもなく言葉の捉え方が違うな?

 イケメン補正? 人物的信頼性?


「回答します、マスターの場合はロマンと憧れに引っ張られています。

 自身が人生で出来なかった事へのロマンや憧れや妄想が時々暴走しているのでしょう。

 通常その役目はエターナル様が出張って来るのですがタイミングを逃してしまったようで現在自分で言う事が出来なくて地団太を踏んでます。」


『オレのセリフが~~~~~~~~~!』


 お前のでは無い!


 溜息をつきながら懐かしそうにロザリア婆さんは、


「はぁ~まぁ、信じた相手なら騙されても良いと言っていた職人気質の死んだ旦那なら喜んで共感するだろうけどねぇ。」 


「ははっ、ありがとうございます! でももし騙されて持ち逃げされてもこの位ならダンジョンに潜れば直ぐ補えますし。」


 そう告げるとロザリア婆さんはにっこりと笑い。

「そうかい! そうかい! この程度は訳ないかい、頼もしいねぇ!」


「では、商業ギルドで欲しい素材とアイテムを選別しておこうかねぇ、ただこれだけの品揃えの多さだ、5日? いや! 3日後までには買い取りの品決めと支払金を用意するよ。

 残りは借りているマジックバッグに保管しながら随時販売して行くという事で良いかい?」


「ええ、それで構いませんよ、委託販売の手数料もしっかり差し引いて下さいね。」


「その辺りはしっかりと規定の金額でやっておくよ安心おし。」


「お願いします、何でしたら預けたマジックバッグも原価価格でお譲りしますよ?」


「まったく、何でもかんでも安売りするんじゃないよ! 価値のあるものは相応の値段で売りなさい! そうじゃ無いと馬鹿どもが付け上がるし、職人が食いっぱぐれちまうよ!

 ふむ、この話が済んだ後にクロウの坊主には商業ギルド会員としての指導(説教)が必要だねぇ。」


 あれ? やらかした?


「YES! やらかしましたねマスター! 良い機会ですので愛の在る指導を受けて下さい。

 これも良い経験です!」


 少し順調すぎて調子に乗り過ぎたな、まぁ失敗はしたが年長者の知識が得られるのは良い機会かもしれないな。


 さて次は、冒険者ギルド関係か、めんどくさいなぁ。

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