第111話 元おじさん・・・エイメン氏と語る



 エイメンさんの熱心な説法は、御神体彫像様の新たなポージングの報告により終了した。


 いや~もの凄い熱意だったな・・・昔おじさんをハメようとした詐欺まがいのセールスマンもこんな感じだったな・・・一緒にしたら失礼かな。


「回答します、非常に失礼だと思われます・・・マスターは神々への信仰に何か抵抗があるのですか?」


 ん~~~、信仰に対しては特に抵抗は無いよ!

 心の拠り所にもなるから、けれども宗教で嫌な思いをした事が多々あったからねぇ、まぁもう昔の事だけれども今でも心に引っ掛かっていてね女々しい事に。


 その様に拗れているおじさんの話をラヴィとしていると、興奮気味ではあるが申し訳なさそうにしているエイメンさんが戻って来た。


「お話の途中で退室してしまい申し訳ございません! クロウ様!」

 土下座しそうな勢いで頭を下げて謝罪するエイメンさんを何とか宥めて席に座ってもらった。


「お気に為さらないで下さい、あの様な神の御業を目の当たりにしましたら冷静ではいられないでしょうし。」


「お気遣い痛み入ります、私もまだまだ修行が足りない様でお恥ずかしい限りです。

 年甲斐も無く子供頃の様に興奮してしまいました。」

 恥ずかしそうにエイメンさんは頬を搔いていた。


 その後は他愛の無い世間話をして、神殿へとダンジョン攻略で得た金貨100枚と事前に製作した時間停止と重量無効と内容物整理表示機能と容量1,000ℓの偽装付きマジックバッグに食料や医療品、その他諸々を収納して渡した。


 後ついでにラヴィに編集を頼んでおいたおじさんが知りうる限りのポージングや掛け声、トレーニング方法等をまとめた資料を渡したが、どうやらやり過ぎた様でエイメンさんが恐縮してしまい少々ごたついたが、『孤児院の子供達や他に苦しんでいる人達の為に使用して下さい! 自分では出来ない事です! 神殿の皆様にしかお頼み出来ません! どうぞ自分の自己満足な偽善的願いを御聞きいただけないでしょうか?』と勢い任せにお願いしたら諦めた様子で了承してくれた。 やったぜ!


 「今日はこの先お忙しくなりそうですのでお話はここまでに致しませんか?

 再度落ち着きましたらお尋ねいたします。」


 「・・・かしこまりました、非常に残念ではありますが、確かにこの奇跡の一時を後世に残さねばなりません、また後日御都合がおつきになりましたらお尋ねください。」


 「ええ、非常に有意義な時間でした、またお尋ねします。」


 一応社交辞令を含んで挨拶をしてエイメンさんに別れを告げて神殿を後にした。


 その後、神殿では御神像が元に戻るまでの間大変な騒ぎとなった。







  




 あの奇跡の後、ようやく興奮も収まり眠りについた彼は夢を見た!

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 ・・・その日、朝の目覚めと共に彼は感涙の涙を流しながら周囲を見渡し・・・枕元に在る一冊の本を両の手で丁寧に慎重に持ち上げて頭の上方に掲げて祈りを捧げた。


 後に彼、エイメン氏は語る。


 「あれは本当に夢の様な一時でした、薄いベールの向こう側に薄っすらと映し出される神々しい御姿と御優しい御声!

 更にファーシス神様が自らしたためられた聖典を賜り!

 『精進する様に』と御言葉も頂いた!

 私は生涯を掛けてこの使命を全うする!」


 ・・・まぁ実際はクロウがエイメンに資料を渡すのを見て羨ましくなり、じゃあ自分も真似をしようとその場の思い付きでやらかした事だが、その対象に選ばれた者からすれば大事である。


 のちに、『筋肉の枢機卿』と呼ばれ、惜しむ事無く聖典に記された筋肉の鍛え方・育て方・ポーション(プロテイン)・ポージング・聖歌(掛け声など)を一字一句正確に写本をして誰にでも閲覧できるようにし、多くの人々へとその教えを広めた。


 そして、クロウが渡した資料も名前は伏せらせているが、聖書として受け継がれている(本人は知らない)。


 更に年に一度、あの奇跡が起きた神殿に置いてその鍛えた筋肉を神へと奉納する『筋肉祭』が毎年行われ、最も人々からの喝采を得た者にその年の最優秀筋肉としての称号が男女別で与えられる(エイメンは既に殿堂入りしている)。


 数年の後、迷宮都市として有名であったアバルナだが、一部の信奉者たちから筋肉都市として有名になった。


 体の弱かった子供が元気になったとか、貧弱だった後衛職が前衛職に引けを取らない活躍をしたり、素行の悪かった者たちが更生したり、その活動の恩恵は無視できないものであり、時として様々な国や組織と語り合う(肉体言語)事も多々あった。


 そんな激動の生涯を駆け抜けたエイメン氏は多くの者達が見守る中、年老いた身にもかかわらず、天へと右の腕を高々と掲げ上げて、遠くまで通る声で叫んだ!


 『我が人生に一片の悔い無し!!!』


 その言葉と共に天から光が降りて彼を照らしそのまま立ち往生でその生涯を遂げる享年129歳であった。


 この事は後世の偉人伝『筋肉の父・エイメンの書』 著クオン・リーフにも書かれている。



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 あけましておめでとうございます!


 未だにリアルと除雪が忙しいですが今年も妄想を駄々洩れにして執筆いて行こうと思います。


 皆様も良いお年をお迎えください!

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