第37話 オルーマン冒険者ギルド・・・元おじさん少女を泣かす。



 リルルカSide


 リルルカは不満を抱えていた、成人したとは言え精神的にはまだまだ子供な彼女は自分以外の優遇される新人に小さな嫉妬を感じていた。


 何時も小言のうるさいアゲインのおっちゃんはともかく、ギルマスまで自分にきつく言って来たのが納得出来なかった。


 これ等が自分に対する大人達の意地悪とかではなく愛情で有るとは考える事が出来る程、リルルカは大人では無かった。


 たとえ女神様のお気に入りでも少し覗く位で大事に成る事等無いと高を括り、アゲインが忙しい隙を突き、再度クロウ・クローバーに〈鑑定・看破〉を使用した。


「ふふっ、私のスキルが容易く見破られる事なんて無いのよ。

 さて、クロウさん貴方は何かを隠しているのかしら?」


 実際、リルルカのスキルレベルは新人覗きを続けて来た事もあり、鑑定Lv7、看破Lv6と同年代では断トツに高かった、そのスキルレベルが彼女の自信にもなっていた。


_________________


 氏名:クロウ・k・・・・ジジジジッ・・・h。ぃ3h、いg


 gc。。c。hqg。qghx;う4・・・・


    ・・・・・・ブツン・・・・・


「え?・・・みえなくなった?・・・何故?・・・スキる・・・!

 え!  うそ!  スキルが発動しない!  ステータスもみえない!」


 混乱するリルルカの頭の中に知らない女性の声が響く。


『汝が深淵を覗く時 深淵もまた汝を覗いている 汝努々ゆめゆめ忘れる事無き様に』


『あっああああああああああああああああぁ おれのせ・・・・・・・・・』


 女性の声の後に別の声が悲鳴を上げたのに驚きしゃがみ込むリルルカ。

 カウンターが壁に成り表からは誰もリルルカの異変には気付かなかった。

 頭を抱え震えるリルルカの脳裏には、スキルが使えない事への恐怖で一杯だった。


「どうしよう、何度試しても鑑定出来ない、自分の状態も判らない、状態異常?スキルによる攻撃?さっきの声は誰?女性・・・・・・! め 女神 さま・・・」


 リルルカは血の気が引いた、その先を考えたく無い、思い付きたく無い、そこに行きついたら、そこに思い至ったら、私はもう・・・涙が溢れた、忠告を聞くべきだった、もっと言葉の意味を考えるべきだった。


・・・クビになっちゃう? ひっぐ うぐ びんなにあえなぐなる? いやだぁ いやだよぉ ごべんなざいぃ めがびさま ごべんなさいぃぃぃ!」

 自分の居場所を失う恐怖にただ声を殺して謝罪するリルルカ。


「リルルカ? おい! どうした何で泣いてる!・・・おまえまさか・・・」




 アゲインSide


 アゲインは朝から忙しかった、仕事量はいつもと変わらないが昼前までに片づけ仕舞わないと、あの坊主が来る。


 それ自体は問題無いが、リルルカがやらかしそうな気がして為らない。

 高い能力を持つ若者特有の根拠の無い万能感、あれは厄介なもので、その勘違いで命を落とす若い冒険者を何度も見て来た。


 リルルカは今のオルーマン冒険者ギルドに無くては為らない存在だ、希少な鑑定スキルを持ち、少々悪い癖も有るが仕事熱心な良い娘だ、皆が可愛がるのも分かる。

 ただ、父親はもう少し娘に厳しくしても良いと思うが、自分も娘を持つ身としては似た様なものなので強くは言えない。

 自分勝手な考えでもあるが、やはり心配なので致命的な失敗をしない様に小言も言う、自身の失敗は大きな経験だが取り返しのつかない失敗は全てを無くす場合もある。


 今回は、女神ドゥジィン様が関わっている相手だ、その辺のチンピラとは訳が違う、あの坊主だけなら何とかなりそうだが、頭の痛い話だ そう言えば嬢ちゃん言い付けた仕事ちゃんとやっているだろうな。


 ん!いない!・・・まさか、冗談じゃねぞ!


 アゲインは急ぎ確認に向かった、そこで泣きじゃくるリルルカを見つけ。


「リルルカ? おい! どうした何で泣いてる!・・・おまえまさか・・・」


 アゲインに気付いたリルルカは、咄嗟に足にしがみ付き。

「ごめんなざいぃ ハアゲインざん ごべんなざいぃ あたしずきるつがえなぐなたああぁ うぐ ギルドぐびになっじゃう やだあぁ びんなどわがれだくないぃ!」

 

 アゲインはとにかくリルルカをなだめて事情を聴いた。

 ・鑑定・看破が使用出来ない事、

 ・直後に女性の声と悲鳴が聞こえた事、

 ・クロウ・クローバーを鑑定した事、

 言い付けを守らなかったリルルカに怒りも覚えたが、今の彼女を見ていると哀れでならない。

 流石にやり過ぎではと思うが、声の主が女神ドゥジィン様なら人の尺度で非難出来ない。


「リルルカ、良いか良く聞け今から出来るだけ他の連中に見られない様に奥の部屋に入っていろ、そしてこの事はまだ誰にも話すな、聞かれても俺に口止めされていると言い張れ! 出来るな!」


「うん、わがった ぐす おっじゃんはどうするの?」


「俺は話を付けてくる、戻って来るまで大人しく待って居ろ!」

 そう言いながらリルルカの頭を優しく撫でた。


 リルルカが大人しく移動するのを見送り、すぐに周囲にクロウが居ないか確認したが見当たらないと判ると受付のミラルに心当たりが無いか聞き、急いで追い掛けた。


 

「はぁ、はぁ、よ、良かった、追い付いた! 坊主…いや、クロウさん話があるんだ、聞いて貰えないだろうか頼む!」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 疲れた・・・話は付いた、付いたが疲れた・・・クロウに行き成りホモ疑惑を掛けられるし、人通りが少ないとは言え女好き発言をした、嫁に誰かが告げ口したらどうしよう・・・気が重い。


 ギルドに到着すると、リルルカが待つ奥の部屋に向かった。

 ドアをノックし返事を聞いてから入室した。


「なんだ、ミラルも居たのか、仕事は良いのか」

 リルルカの横に座っているミラルが少し呆れたように此方を向き。

「交代は頼んであります、落ち込んでいる女の子を放って置けないでしょう。

 もう少し気を利かせて下さい、娘さんに嫌われますよ」


「うぐ、悪かったよこっちも大変だったんだよ。

 で、何処まで知ってる」


「何も、予測は付きますが詳しくはアゲインさんから聞く様にと、リルルカちゃんが言っていました」


「そうか、良く言い付けを守ったなリルルカ、話は付けてきた安心しろ、スキル封じの類だから、しっかりと反省すれば10日から15日位で解除してくれるそうだから気を抜かずに反省しろよ」

 そう告げると、リルルカは泣きながら喜んでいた。

「良かったぁ ぐす アゲインざんありがどう ギルドクビにならなくて ひっぐ よがったぁ」

 そんなリルルカの頭を優しく撫でながらミラルが囁く。

「大丈夫だよぉ、大丈夫仕事なんて幾らでも在るからリルルカちゃんをクビにするなんて絶対無いからねぇ」

「ミラルさ~ん!」

 泣きながらミラルの胸に顔を埋めて抱き着くリルルカ。

「よしよし、大丈夫だからね」

 リルルカの頭を撫でながら抱き締めるミラル。


 ・・・落ち着くのを見計らって話し掛ける。


「リルルカ、この後は家に帰って休息しろ、報告や事後処理はこっちでやっておくから、お前はとにかく休め、…そう、自宅謹慎だ!ギルマスにも伝えておくからスキルが使える様になったら戻って来い。

 ただし、まずは説教から始まるから覚悟して置けいいな」


「うん、わかった おっちゃん本当にありがとう」


「分かれば良い・・・あ、悪い伝言頼まれてた」


「・・・おっちゃん、締まらないよ」


「おほん、意味は良く判らんが一言一句間違えずに伝えるぞ!」


『深淵は、常に汝を覗いている』


 そう伝えると、リルルカは両腕を抱えながら震えていた。


「大丈夫か?リルルカ」

 そう問い掛けると、小さくうなずき。

「大丈夫、大丈夫だからもうあんな馬鹿な真似はしないから。

 クロウさんにもきちんと謝るから」


「一人で帰れるか?無理なら「リルルカァ~、無事か! どうした、泣いているのか! おのれ、アゲイン娘を泣かせるとは、たとえ神が許しても、この「パパやめて!アゲインさんは私を助けてくれたの!」・・・パパ ぱぱ 久しぶりのパパ呼び・・・やはり良い」


「おう、誤解は解けたかパパ」


「誰がパパだ! パパと呼んで良いのは娘だけだ!」


「では、パパさんリルルカちゃんをお家まで送ってくれます、ただしきちんと戻って来て下さいね」


「ふむ、ミラルさんにならよ「ママに報告します!」まって、リルちゃん冗談だから、ママには言わないでお願い!」


 少し調子を取り戻した、リルルカを連れて家に戻るサブマスパパを見送り、ギルドマスターに報告に向かった。



 ギルドマスター・マルコムSide


「以上が、つい先ほど発生し解決した案件です」

 アゲインの報告を聞いて目眩めまいがした。

 報告を聞く限り間違い無く普通の新人じゃない、鑑定に対するカウンターなど聞いた事も無い。

 スキルにしてもマジックアイテムにしても常軌を逸している。

 本人の能力か、女神ドゥジィン様の御力か、下手な詮索は身を滅ぼしかねない。


「アゲイン、スキルだとしたらどんなモノだと思う」


「推測で良いなら、鑑定阻害のカウンター型で相手の鑑定系スキルを封じ込める事が出来、期間はスキルレベル合計×24時間って所かな」


「他にも、なにか在りそうな気もするがそんな所だろう、じゃあ何故、リルルカが最初に覗いた時は無事だったんだ?」


「最初の鑑定時は見逃してもらったと思うしかないだろう」


「そうだな、・・・次の目的地はアバルナと言っていたのかミラル」


「いえ、ダンジョンに挑戦したいと言っていましたから、この周辺のダンジョンでしたらアバルナしかありませんので」


「そうか、取り敢えずアバルナのギルマスには連絡だけでも入れて置こう、問題が起きてからでは遅いからな」


 ・・・何も起きなければ良いがな。

 

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