15日目
人間が異形の怪物へ変じるという謎の現象が発生してから2週間が経った。
各国政府は、未だこの現象に対する有効な対策を打ち出せていない。
出来ているのは国民に対して集団での行動を控えるように呼びかけることだけだ。
ただ、ここ2、3日は新たな被害も発生せず、小康状態になっていると思われていた。
……残念ながら思われていただけだったが。
そのニュースが飛び込んできたのは、最初の被害が発生したのと同じ時間帯だった。
最初は、慣れて油断した不用意な人たちが被害にあったのだろうと思っていた。
最初の被害から1週間経ったころにも、同じようにいくつかの被害が発生していたからだ。
だが、次々に伝えられる被害のニュースを聞いて、そうではなかったことを思い知らされた。
被害はまたしても世界中で同時多発的に発生しており、その被害もこの2週間で安全だと確認されていたはずの規模の集団で発生していたのだ。
今回の被害で深刻な事態になったのは、各国の対策本部と呼ばれるようなところだ。
異形化の条件の対策として、当然のようにその活動は電話やメール、オンラインの会議など集団で集まらずに済むような体制で行われていたらしい。
だが、それでも完全に人が集まらずに済むようなところまでは持っていけなかった。
この2週間で、条件として2、30人程度の集団であれば問題ないと思われていたことも原因の1つかもしれない。
なんにせよ、今回の被害でこの現象に対する調査、およびその解決策の検討を行っていた機関の大半が壊滅した。
もちろん調査していたデータなんかは残っているだろうし、完全に無駄になったわけではないだろうが、その歩みは大きく後退したことだろう。
被害はそれだけではない。
国の対策本部だけでなく、各地で活動していた数十人規模の団体でも軒並み被害が発生した。
小規模で活動を再開していた企業や各種自治体の公共機関、少人数ごとに分散して再開していた学校などだ。
特に地方部での被害が多く、最初に現象が発生した際に大きな被害が出なかった影響か、今回は相当な数の被害が出たらしい。
当然、これらの被害には各地の治安維持にかかわる組織も含まれる。
基本的に警察や消防、自衛隊といった組織は集団で行動するものだ。
最初の被害の際に、自衛隊の一部以外に被害が出なかったことから、人員の総数としては問題ない数が確保されていたらしい。
なので、以降も警察や消防、自衛隊では人員を配置しなおして数十人単位で活動していた。
だが、それらの部隊も壊滅してしまった。
他に致命的な被害を受けたのが報道関係だ。
テレビの撮影には例の現象が発生するほどの人数が必要なかったのか、基本的には今まで通りの放送が行われていた。
だが、今回は多くのテレビ局で被害が発生してしまった。
特にダメージというか、衝撃が大きかったのは被害発生当時に生放送を行っていたところだろう。
インターネット上で散々、異形化被害の映像が流れていたとはいえ、テレビでついさっきまで見ていた人たちが異形化するというのはインパクトが違う。
その映像が流れた瞬間、インターネット上は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
一応、被害が落ち着いた今は放送を再開しているが、いつまで続けてくれるかはわからない。
現状が維持されるかわからないものはテレビに限ったことではない。
今はまだ電気、水道、ガスなどのインフラが保たれているが、今後はどうなっていくかわからない。
インターネットの回線にしてもそうだろう。
基本的にこれらを維持していくためには人手が必要なはずだ。
とりあえず、まだインフラが生きているからには維持する人が残っているか、それらに対する致命的な被害が発生していないということだろう。
ただ、この異形化が発生する現象の終わりが見えない以上、何らかの対策を考えておく必要があるかもしれない。
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