第11話 休憩
法務大臣が厳かに休憩を宣言した。
「これにて休憩に入る。然る後に論告求刑、最終弁論と被告人最終陳述と続き、審理の後に判決を言い渡す」
「ねえ軍司法官、論告求刑と最終弁論と被告人最終陳述って何をするの?」
「まず、検察がこれこれこういう事件だからこれくらいを求刑!って言うの、それが論告求刑。最終弁論っていうのは弁護人つまり私が、被告人はこれこれこうだから、無罪ですよとか求刑は重すぎるとか執行猶予をくださいとか、そういうのを訴えるの。被告人最終陳述は、名前の通り被告人たるあなたに最後に言いたいことはないか?って聞かれるので、死なせる意図はなかったとか、今では反省してるとか、そういうことを自分の言葉で主張して、減刑を勝ち取ることも視野に入れることも出来る陳述よ」
「自分はやってないよ!って否認してもいいの?」
「いいけど、もし有罪になる見込みであれば、心証が悪くなるだけの話ね。それに今回は無理だと思うわ。最初に起訴内容認めちゃってるし、本当に王犬を老衰で死なせたんだし」
「なるほどねぇ…」
「ともあれこれが最後の作戦会議です。あなたが優秀な獣医師であることは証言からも明らかで検察もそこは疑っていないと思います。だから、あなたが無能だから死なせてしまったと言ってくる線はありえません。起訴内容で言っていたとおり、優秀であり死を予見できたにもかかわらず対策を怠った、って言う路線で来ると考えられます」
「起訴内容なんてわすれちゃったよ。そこまで細かく聞いてるんだ」
「当たり前です。獣医師先生方が心雑音を聴き逃さないのと同じです」
「それを聴き逃す奴がいるから問題に…と、それはいいとして、どんな求刑で来るんだろう?」
「もちろん死刑です」
「ごめん、言い方が悪かったよ。その方法。昨日聞いた判例によれば、やったことに関連するっていうじゃない」
「王様に抱かれ新上席王宮獣医官に見守られながら王様の手をペロペロと舐めて静かに息を引き取らされるんじゃないでしょうか」
「やだよそんなの」
「はぁ─おそらく、ですが、穏やかに静かに死ねるんじゃないですかね」
「で、こっちはどういう作戦で行くの?」
「そうです、本題はこっちです。どうなりたいですか?」
「というと?」
「まずは死刑か、狙えるとすれば終身刑です。死刑はもちろん気分が宜しくないかとは思いますが、終身刑は終身刑で別の苦しみがございます。どちらがお好みですか?」
「どっちもやだけど、終身刑の方が嫌かなぁ。だって終身でしょ?」
「住んでいれば慣れるとも聞きますが」
「住むって言わないでよ。そうだね、死刑の方が気が楽かな」
「承知致しました。それでは死刑求刑に対しては異議は申し立てず、なるべく苦痛なく穏やかな方法になるよう尽力します」
「うん、その方向で頼むよ」
「被告人最終陳述は、被告人として言いたいことを言えばいいんだね?」
「そうですね。様々な状況に応じて、こういうことを言った方がいい、等の戦略はありますが、死刑求刑は確定的ですし、その方法が争点になるだけです。被告人最終陳述については、あまり深く考えなくてよろしいかと」
「判決が出たらどうなるの?」
「あなたは死刑囚としてそのまま連行されることになります。なお、王家に対する罪に関しては弁護人…元弁護人であっても死刑囚との面会は許されませんし、即日執行も珍しくありません」
「ということは、軍司法官とざっくばらんに話が出来るのは今が最後というわけか」
「そういうことになりますね」
「短い時間だったけど、ありがとう。もうひと踏ん張りお願いします」
「こちらこそ貴重な経験をさせて頂きました。よもや初めて一人で弁護する裁判がここまで重い軍法会議とは」
「え、初めて一人で弁護する裁判」
「はい、一人で裁判に臨んだのは初めてです。あなたの犠牲の元、私は必ずや立派な軍司法弁護官になってみせますのでどうぞ心置きなく旅立っていただければと─」
初めて一人で臨んだ裁判と言うが、素人から見ればなんだかよくわからないが、経験を積んだ弁護人に見えた。きっと優秀で将来を嘱望されているのだろう。それに、司法の観点からすると、今回のように死刑が確定的でその方法を争うだけの軍法会議はソロデビューに最適なのかもしれない。
そろそろ休憩が終わる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます