第9話 証人尋問⑤ SP

「宣誓、私は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを固く誓います」


 内閣総理大臣が一言添えた。


「ここでの発言は、記録はされるが軍事機密である。本来課される一切の守秘義務はこれを無効とする。従って証人は、守秘義務に該当する事象についても証言されたし」


 このSPのことは知っている。常に王と王犬と自分を間近で護衛していた者だ。やはり堂々とした立ち居振る舞いだ。証人として召喚されたからだろう、サングラスとインカムを外している。おそらく拳銃も持っていないはずだ。ところでSPは軍属なのか、それとも何か他の属なのだろうか─


 検察が質問を始める。


「最終学歴を教えてください」

「市立大学獣医学部です」

「獣医師免許はお持ちですか?」

「所持しております」


─あのSP、獣医師なのか!


「では一昨日までの、あなたの業務を教えてください」

「王様及び王犬の護衛、そして上席王宮獣医官の監視です」


─監視


「監視とは一体どういうことですか?」

「当時の上席王宮獣医官、つまり被告人が、その獣医学的知識及び技術をもって王犬を殺害しないよう監視しておりました」


─な…


「そのことは、被告人も知っていたのでしょうか?」

「元上席王宮獣医官たる被告人を含め、王宮獣医部、つまりあらゆる聖獣医騎士及び各王宮獣医官は、我々のような存在について聞かされていないはずです」

「被告人は、王犬に対してなにか怪しいこと、例えば健康を害すると考えられるようなことを実施しましたか?」

「6年間に渡り、1度たりともそうしたことはありませんでした」

「被告人の処置などについて、こうした状況ではあなたもこうする、といったことがほとんどでしたか?」

「いえ、こんな方法があったのかと驚かされるばかりでした」

「あなたは王犬の解剖に立ち会いましたか?」

「立ち会いました」

「率直なご意見をお聞かせください」

「獣医療現場から離れて久しい身ではございますが、異常はないと思いました」

「あなたが診断を求められたとしたら、何と診断しますか?」

「老衰です」

「ありがとうございます、質問は以上です」


 すぐに弁護人側からの質問が始まる。


「先程、現場から離れて久しいとおっしゃいましたが、現場経験はどれくらいございましたか?」

「民間動物病院の獣医師として、10年前から6年前まで4年間、犬や猫の診察と治療に当たっておりました」

「そのあと、獣医師であることを隠してSPの職に就いたのですね?」

「公務員試験を経て特殊警護部に配属されました際、獣医師であることを隠すよう指示を受けました」

「あなたが獣医師であることを知っていた人間はどれくらいいらっしゃいますか?」

「公的には、王様、歴代の特殊警護部長官、そして詳細はわかりませんが履歴書や面接を担当して頂いた方々です。私的には同窓生や家族、前職の患者飼い主様など様々です」

「公的には、あなたはどう見てもSPですが、先生がSPであることを知っていた私的関係の人間は?」

「SPはSPであることを私的に知られてはなりませんので、1人たりともおりません」

「つまり、あなたが『獣医師の資格を持っているSP』と知っているのは、王様、歴代の特殊警護部長官、そして試験から任官までの過程を担当した者だけということですね」

「はい、その通りです」

「特殊警護部には、他にもあなたのように資格を隠した方々が大勢いらっしゃるのですか?」

「資格などについては互いに守秘義務がございます。従って誰が何の資格を有しているか、あるいは有していないか、どのような資格を持つ人間がどれほどの人数いるのかは、わかりません。話題にも上がりません」

「では、王様や王犬を警護していたSP達のなかには、他の獣医師も被告人を監視していた可能性もあると考えてよろしいのでしょうか?」

「はい、私にはわかりませんが、他にも獣医師がいた可能性はあると考えます」

「ありがとうございます、質問は以上です」

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