第6話 証人尋問③ 警察獣医官
「宣誓、私は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを固く誓います」
こちらも軍獣医官と同じく堂々としている。軍も警察も似たようなもの…などと考えては軍人や警察官に失礼かもしれないが、国家の意志を具現化する存在という点では同じだ。そのために強力な統率力があり、個々の肉体を鍛え、一般人には許されない装備を持ち、様々な専門性を備え ─
検察が質問を始める。
「あなたのご専門を教えてください」
「獣医微生物学、特に犬の伝染病を専門としております」
「王犬の解剖に際して、何らかの微生物の感染が疑われる初見はありましたか?」
「ございません。どの臓器におきましても、微生物性の病変はありませんでした」
「一見病変がなくとも微生物学的検査は実施するのでしょうか?」
「実施致します。検査によって初めて判明することもございますし、また『いない』『いても無視できる』といったことを確認するためでもあります」
「それでは今回の王犬について、どこかの部位に何らかの微生物は発見されましたか?」
「腸内には大腸菌などの腸内細菌が分離されましたが、菌種、菌数ともに正常でした。その他の臓器につきましては、細菌は分離されませんでした。ウイルスの培養には時間がかかるため現在も実施中でございます。遺伝子検査では通常見られるウイルスの遺伝子は全て陰性でした」
「司法の世界には『悪魔の証明』というものがございます。物事が存在することを証明するのは簡単ですが、存在しないことを ─」
「異議あり!検察は証人や質問とは無関係な弁論をしています!」
─ やっぱり「異議あり!」やってみたい…
「異議を認めます、検察は質問をしてください」
「失礼しました。検査方法に不足があって、何らかの細菌やウイルスを見逃したという可能性はありませんか?」
「まず、この国で通常犬に発生しうる病原体につきましては、全て検査を実施しております。それらは全て確立された方法、枯れた技術であり、病原体が存在するとすれば
「病理組織学的検査と併せて総合的に診断とはどういうことでしょうか?」
「微生物学的検査によって何らかの微生物が検出され、病理組織学的検査でその微生物によると考えられる組織病変が見られた場合、その微生物による病気だと断定できます。つまり、微生物学的検査と病理組織学的検査の結果が一致しているということです。同様に、微生物が検出されず、微生物によると考えられる組織病変も認められない場合は微生物による影響はないと考えます。今回の事例は、このパターンに該当すると考えられます。微生物学的検査成績と病理組織学的検査成績が食い違うこともありますが、ここでは割愛したいと思います」
「ありがとうございます、質問は以上です」
すぐに弁護人側からの質問が始まる。
「12年前に王立わんにゃんパークを襲った伝染病禍をご存知ですね?」
「存じております」
「何の病気か、何の病原体かもご存知ですね?」
「存じております」
「その病気は警察犬にも発生したことはありますか?」
「ございます」
「大きく拡がったことはありますか?早期に食い止めていらっしゃるのですか?」
「拡がったことはございません。おかげさまで早期に食い止めることが出来ております」
「その方法はどういったものですか?また、学術的根拠はどちらですか?」
「異議あり!弁護側は明らかにわかりきったことを質問し、本会議を心情的なものにすり替えようとしています!」
─ 敵ながら、やっぱり「異議あり!」憧れるなぁ
「異議を棄却します。証人はそのまま証言してください」
─ おおっ、やはりなんでもかんでも「異議あり!」は出来ないんだ
「はい、病原体の抗原と、それに対する抗体を同時に迅速に検出できる検査試薬を使っています。かつては材料となる病原微生物を自分たちで育てて
「その検査法がなければ対策が遅れるのですか?」
「それまでであれば3日かかる検査を3分で出来るようになりました。これによって感染動物と非感染動物を隔離して、蔓延を防ぐことが可能となりました」
「ありがとうございます、質問は以上です」
※1著者注 検査を失敗すること
※2著者注 必要な時に必要な分だけ作ること
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