第4話 証人尋問① 元園長
証人尋問が始まった。まず最初に召喚されたのは、10年前のわんにゃんパークの園長。内閣総理大臣に促されて慣れない仕草で証言台に上がった。脚が震えている。証人として法廷に召喚されること自体そうそうあるものではないし、ましてやこれは軍法会議。あまつさえ裁判官は王と内閣総理大臣と法務大臣である。平常心でいられる方がおかしい。
「せ、宣誓、私は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを固く誓います」
検察が質問を始める。
「14年前、被告人が獣医師として王立わんにゃんパークに着任したとき、先生は園長でした。間違いございませんね?」
「はい、間違いございません」
「王立わんにゃんパークでは、獣医師採用の際に面接を実施しますか?」
「はい、面接は実施しております」
「先生はその面接で、面接官として参加していらっしゃいましたか?」
「はい、園長として、面接官として、面接に臨みました」
「被告人について、どういった印象を受けましたか?」
「実直で優秀な獣医学生と感じました」
「被告人は王立わんにゃんパーク着任後、どのような業務を担当しておりましたか?」
「異議あり!検察は無関係な質問を重ねて当会議を引き延ばし、そして論点をずらすことを意図しております!」
─ 本当にやるんだ、「異議あり!」って…ちょっとやってみたいかも
「異議を認めます。検察は要点を絞って質問するように」
「はい。ではお伺いします、被告人は在園中4年間で、何頭くらいの動物を死に至らしめましたか?」
「それは…」
「急に頭数を問われてもお答えしづらいですね、失礼しました。質問を変えます。被告人が病気や怪我などで動物を死に至らしめた程度、頻度、回数などは、他の獣医師と比較していかがでしたか?」
「明らかに少なかったです」
「それは被告人が担当した動物が少なかったからですか?」
「違います、むしろ他の獣医師より多くの動物を担当しておりました」
「動物は必ず死にます。そして先程、被告人は他の獣医師より多くの動物を担当していたとおっしゃいました。また、病気や怪我で死に至らしめることが他の獣医師より明らかに少なかったともおっしゃいました。確認させてください、間違いございませんね?」
「間違いございません」
「では、その他の獣医師たちよりも多く担当していた動物の死因、病気でも怪我でもない、死に至らしめた要因とは、一体何ですか?」
「老衰です」
「ありがとうございます、質問は以上です」
すぐに弁護人側からの質問が始まる。
「被告人が王立わんにゃんパークに在籍中、失礼ながら他の獣医師であれば死なせてしまったであろう症例を、被告人なればこそ救うことが出来たという事例はございましたか?」
「何度もございました」
「どういったものがありましたか?申し訳ございませんがいくつか簡潔にお願いします」
「はい、例えば血管内の腫瘍を切除するに際して、獣医学領域では世界で初めて血管内視鏡を使用しました。また、恥ずかしながら園内で伝染病が蔓延した際に早期摘発のための迅速検査の系を2日で構築して被害拡大を未然に防いだこともあります。さらに臓器移植や遺伝子治療、それからこれは救命ではございませんが、どんな動物にも好かれる立場を利用して精神獣医学の研究…」
「ありがとうございます、もう結構です。改めて、被告人は優秀な獣医師ということで間違いございませんね?」
「極めて優秀で偉大な獣医師、我々獣医師界に留まらず人類の至宝と考えます」
「では最後の質問です。獣医学領域では、老衰によって死亡した動物について、人間がどうしたと表現しますか?」
「と言いますと?」
法務大臣が口を挟む。
「証人は質問に質問を返してはなりません。聞かれたことに答えてください」
「改めて質問します。人間がどうしたと表現しますか?例えば─」
「異議あり!弁護側は明らかに、証言を自分たちに都合の良いものへと誘導しています!」
「異議を認めます。証人はこのまま先の質問にお答えください」
「はい、老衰につきましては、動物を死なせた、殺した等の表現を致しません。動物を看取ったと表現します」
「ありがとうございます、質問は以上です」
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