第5話

夏から秋に変わる頃、

私は先輩のことを仕事が出来る一人の"ヒト"としてとても尊敬をしていた。


束縛が激しくなった彼氏とは別れ、相変わらず先輩からの交際の申し込みは断り、そんな日々が続いていた。


ある日、仕事で失敗をしてしまい落ち込んだ事があった。

そんな私を見て、先輩に呑みに連れて行かれた。先輩とのサシ呑みは初めてだった。


私の話を

「うんうん、頑張ったのにそれはツライよな」

と真っ直ぐ眼を見ながら聞いてくれる。

弱っているときに、この優しさはズルいよなぁ、そう思いながら呑んでいた。


帰りがけ、

お得意の「散歩していかない?」がきた。

まぁ今回は相談にも乗ってもらったし、終電までなら付き合うか、と思い、あの頃と同じ海辺を散歩した。


「ねぇ」


いつになく真剣にこちらを見てきた先輩を見つめ返す


「なんですか?」


「好きなんだけど、付き合わない?」


何度目の告白だろう。

思わず笑ってしまった。


「いいですよ」


一瞬きょとんとした顔をして

「え?え?いいの?ほんと?よっしゃー」


先輩は子犬の様に眼をキラキラさせて、喜んだ。


根負けした。




今振り返ると、

3年後には泣くことになるよ、

良くない噂を聞いていたでしょ?

と当時の自分に言ってあげたい。


でも、思い返してみると

たくさん愛情をもらって

たくさん楽しい思い出もあって

今でも私の一部にいる。


当時は私も子どもで

これ以上、一緒にいても

ツラくなるだけだったんだよね、


今なら解る。


先輩を思い出しながら

この文章を打っていると、

目頭が熱くなるの。


思い出って美化されるからね。


あー頭痛いわ。

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