ネズッチ視点~舞踏会・中編~

舞踏会に参加した女性は、予想以上に多かった。

でもどんなに綺麗に着飾ったご令嬢を見ても、俺の心はピクリとも動かなかった。

暗殺に警戒していたせいもあるが、俺の心の大部分をシンデレラへの気持ちが占めていたせいだと思う。


途中ケンタから、列に並ぶ80人目が暗殺者だと判明したと報告を受けてからは、少し心に余裕が出来た。


女性一人一人から、婚約者候補として挨拶と自己アピールを受ける。自己アピールはいらないのではと提案したが、王子と長く対面し不審な動きをしても怪しまれない場をつくり、暗殺者をおびき出すために必要だと諭された。


前半の高位貴族のご令嬢方のアピールには、お淑やかだの、貞淑だの、何ヶ国語話せるだの、似たようなアピールばかりだった。お淑やかだと言う割には、平民に当然のように順番を譲らせて前半に並んでいる貴族令嬢ばかりだと、ケンタから報告を聞いていた。


前半にウンザリしていた俺も、平民の女性達がいる中盤はなかなか面白かった。自己アピールの内容は様々でハイレベルの手芸や、踊りや歌、ピザ生地を回してみせた女性もいた。

父方母方両方の祖父母4人を1人で介護し続け、看取ったという真面目そうな女性もいた。

近所の20名近くの子供のベビーシッターを、1人でやっているという若い元気な女性もいた。


シンデレラから『屋敷の外で働きたい』という話を聞いてから、俺もこの国のことを調べたが、女性の社会進出はとても遅れているのが現状だ。

女性の家の外の仕事といえば、貴族令嬢は城の侍女、平民は飲食店の給仕か、針子くらいであった。


この国には、こんなに多彩な女性達がいるのだから、活躍できる場を作れば、国力は上がるのではないだろうか?長年、介護していた女性には看護師になってもらったり、ベビーシッターが得意な女性は保育士になれたりしないだろうか?

前世の俺の母親も看護師をしており、とてもイキイキとしていた。そんな母さんを父親も俺も妹も誇りに思っていた。

女性がイキイキとしてる国は、絶対子供も男も元気になる。つまり、国民全員が幸せになる。

俺は、目指す国の未来が見えた気がした。開催反対だった舞踏会で、思わぬ拾い物をした気分だ。

そんな高揚した気分でいた俺に、ケンタが釘をさした。


「王子、次が例の暗殺者です。ナイフ投げを得意とするようなので、充分にお気をつけください」


その女性は20代後半の普通の貴族令嬢に見えた。俺はこんな警備がある中で、本当に暗殺してくるのか正直、半信半疑だった。

だが、そのご令嬢がカーテシーから顔をあげるやいなや8本のナイフを投げ飛ばしてきたのには、度肝抜かれた。

幸い、用意していた盾で俺に向かってきたナイフは防いだ。だが、俺の奥に座っている国王に向かっても攻撃されるとは盲点だった。警備兵達も俺への防御にばかり気を取られ、国王への攻撃は意識していなかった様だ。

あわや大惨事と思われた瞬間、この王城のベテラン侍女長がサッと銀のお盆を持って現れ、国王からナイフを防いでみせた。

侍女長は迫力ある声で「ちょいと、近衛兵達!たるみすぎではないかね!あとでお説教だね!」と言い放った。

舞踏会の後に、侍女長のお説教が待っている事に、近衛兵たちが青ざめたのが分かった。

俺が近衛兵たちに憐れみの視線を向けていると、ケンタが次がシンデレラの挨拶だと報告しにきた。


俺は視線を戻し、シンデレラが視界に入った途端、全身に鳥肌がたち頭に血が上ってくるのを感じた。正直、鼻血が出そうになった。


着飾ったシンデレラが、可愛くて綺麗すぎたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る