第6話

--リリ視点--


「ゲホッゲホッ…」


 喉を刺すような咳が止まらない。息をするたび、肺が焼けてしまいそうなほどに痛い。


「だ、大丈夫かい、リリ…」


 体感した事がないほど、頭が重い。顔も浮腫んで腫れ上がっている気がして、鏡を見る気になれない。


「い、いつも可愛らしい咳なのに…どうしちゃったんだ…」


 良い加減黙っていてくれないかしら。あなたになにができるというの。


「お、お姉様は…どこ…?」


 それもこれも、あいつが犯人に違いない。どうせ婚約者を取られたことへの逆恨みだろう。全くくだらない。


「ぼ、僕が付き添うよ…」


 馴れ馴れしく、肩を触ってくる。力を貸すふりをして、胸に腕を当てているのがバレバレだ。本当に下品な男。吐き気がする。


「…リリって、こんなに重かったっけ…」


 聞こえてないとでも思ってるんだろうか。体重なんて変わってねえわ。今までは力がないふりして力を入れてただけだ。


「ゲホッ…ゲホッ…」


 咳に混じり、痰や唾まで出てくる。サルタが一瞬、不快な顔をしたのを私は見逃さない。

 そして私の前にようやく、目当ての人物が姿を現す。


「…まあ、今日は一段と顔色が悪そうね」


 わざとらしい。お前が犯人だろうが。


「な、なんとかしなさいよ…あんたがやってるんでしょ…」


「あなた昔から病弱だったじゃない。何で私のせいになるの?」


「…それは…」


「…まさか、これまでのは全部嘘だったとでも言うつもり?病弱を演じて周りの皆を騙していたの?」


「ち、ちがっ」


 普段ならもっとマシな言い訳が浮かぶだろうけど、全身の痛みが思考を許さない。


「何てこと言うんだ!ミナ!リリがこんんなにも苦しんでいるのに…」


 私を庇う言葉も、もはや耳障りにしか聞こえない。私は何とか力を振り絞り、ミナの方に視線を移す。

 彼女は、笑っていた。

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